民泊で破壊される住民の暮らし

同団体のエグゼクティブ・ディレクターであるトルベン・ウィーディッツ氏は、「住宅として計画され、認可され、建設された住宅が、ホテル用に転用されている」と指摘する。

近隣コミュニティの結束に影響し、雰囲気を悪化させ、住宅市場を高騰させているとウィーディッツ氏は警戒する。トロント市は規制を設け、9人の条例担当を配置しているが、対応が追いついていないのが現状だ。9月以降だけで22件の告発が寄せられ、苦情は1100件以上に上っているという。

ゴーストホテルについてカナダ民放局のCTVは、2020年にはマンションの壁を2発の銃弾が撃ち抜く事件が発生。違法な短期賃貸が明らかになり、ゴーストホテルが問題視されるようになったという。

賃借人が賃貸物件を転貸(いわゆる又貸し)することで、「多額の利益を得ている」と指摘。トロント市がパンデミック中に禁止の方針を打ち出したが、観光業の復調にともないゴーストホテルも復活を遂げたと報じている。このほかCTVは過去に、民泊滞在者が35階からボトルを地面に投げ捨てたり、騒音トラブルで近隣住民が引っ越しを余儀なくされたケースもあったと報じている。

規制は欧州でも進んでいる。オンラインメディアのユーロ・ニュースによると、イタリアのフィレンツェでは今年、Airbnbなど短期ステイの新規掲載が禁止された。オーストリアのウィーンは来年7月以降、宿泊日数を年間計90日までに厳しく制限する。

パリではすでに年間120日以上の営業に対して正式な申請を義務づけており、違反者を探す専門の部署が存在する。ドイツのベルリンとミュンヘン、オランダのアムステルダムも宿泊数上限や罰金を設けており、アジアではマレーシアのペナン島がAirbnbなどの短期ステイを全面的に禁止している。

ほか、イギリスのスコットランド、北部アイルランド、カナダのバンクーバーにアメリカの各都市など、規制の導入が進む。日本では民泊新法により、消防法などの規定を満たした物件に限り届け出制で運営が認められており、さらに年間の宿泊日数が180日に制限されている。

住宅地の空撮
写真=iStock.com/metamorworks
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民泊が「手軽に経営できるホテル」になってしまった

Airbnbなどの短期ステイはもともと、現地の本物の生活を体験したいゲストに愛用されてきた。地元の人々が実際に暮らしている家の一室を間借りし、交流を楽しみながらその土地の暮らしに溶け込む。丁重にお客様扱いしてくれるホテル暮らしとはまた違った魅力が、Airbnbのステイには存在した。

ホストとしても、当然幾ばくかの収益は魅力だが、一室を貸したところで収入は限られる。それよりも何よりも、空き部屋を有効活用しながら、国際交流を楽しめる点に輝きを見出す人々が多かったことだろう。