しわ寄せをくっているのは40、50代…物価を下回る賃金
一方、「ベテラン層(45歳程度以上)へ重点配分」する企業は2.2%にすぎない。つまり、賃上げの恩恵を多く受けているのは若手社員層であり、逆に中高年社員は雀の涙程度しか受け取っていないということもできる。
なぜ若手社員に多く配分するのか。建設関連会社の人事担当者はこう語る。
「人手不足が深刻化し、人材の獲得競争が激化している。新卒に限らず、優秀な中途人材を確保するには給与をアップしなければ誰も見向いてくれない。また、若年層の賃金を上げなければ今いる社員も離職してしまう可能性もある。若手に多く配分したいというのはどこの企業も同じだろう」
それを象徴するのが大卒初任給の高騰だ。今年は電機大手やメガバンクをはじめあらゆる産業で初任給引き上げが相次ぎ、大卒初任給は一気に25万円が相場となりつつある。
さらにゼネコンの鹿島は24年4月に入社する総合職の社員の大卒初任給を3万円引き上げ、28万円にすると公表。他のゼネコンも追随の動きをみせている。
製造業の産業別労働組合の幹部は「3年ぐらい前までは大手企業を含めて初任給の水準はほぼ同じだった。しかし、22年の春闘の頃から初任給を引き上げる企業が出始め、23年は一挙に2万円、3万円を引き上げるなど初任給競争が激化し、初任給インフレの様相を呈している」と、呆れる。
実際に人事院の調査(令和5年職種別民間給与実態調査)によると、今年4月に入社した東京23区内の大学卒の初任給は事務系が約22万2000円。前年より3.0%もアップしている。ただし、初任給のみを引き上げるだけではすまない。バランスをとるために、少なくともその上に在籍している20代後半までの社員の賃金の補正も必要になり、30歳前後の社員の賃金も自動的に引き上げられることになる。
その分のしわ寄せを受けるのが前述の45歳以上の中高年社員だ。45歳といえば、就学児童を抱え、教育費などまだまだ生活費にもお金がかかる。賃上げの配分が雀の涙程度では、今の物価高では生活も楽ではない。その実態について連合総研(第46回勤労者短観調査結果、10月31日)が調査している。
今年の賃金の増加幅が物価上昇幅より大きいと回答した割合は6.9%だった。これは厚労省の毎月勤労統計調査の物価を加味した実質賃金(10月)が19カ月マイナスであることを考えても当然の結果だろう。ところが世代別にみると大きな違いがある。
20代は賃金の増加幅が物価上昇幅より大きい、つまり物価を上回る賃金をもらった人の割合は10.9%、賃金と物価の上昇幅が同程度の人が22.1%となっている。少なくとも物価に見合う賃金を受け取った人は33%もいる。
それに対して40代は物価を上回る賃金をもらった人は6.0%、同程度の人が15.9%。計21.9%にとどまる。
50代は物価を上回った人はわずかに2.8%、同程度が12.6%。計15.4%にすぎない。
そして40代の61.7%、50代の69.7%が、物価を下回る賃金しかもらえなかったと回答している。
今年の賃金が大幅にアップしたとはいっても、中高年社員はわずかしか上がらず、しかも物価には追いつかず、厳しい生活を強いられている。
しかもこうした傾向は今に始まったものではない。