「キョロ目」「ヒラ目」の医師たち

このように、問題の認識すらされていない「ガラパゴス化」が、自然に止まることがあるだろうか?

そんなことはあるはずがない。

海外の医療事情などほとんどの医師は関心がない。

彼らが気にしているのは、日本の医療業界での一般的な事情(横ばかり気にするキョロ目)と国や厚労省からの指導・通達(上ばかり気にするヒラ目)だ。

つまり、「キョロ目」で横を見ながら、「ヒラ目」で上を見ながら、大丈夫そうだったら平気で「外来受診を月2回」に増やしてくるのである。そしてそれが世界的に見て異常値だとは、医師も国民もきっと気づかない。なぜなら今だって異常値なのにだれも気づいていないのだから。

医療は公的事業であるべき

ではどうしたらいいのだろうか。

「情報と関係性の非対称性」、「モラルハザード」この2つの壁をどうしたら突破できるのだろうか。

私は常に「医療はビジネスではなく社会の公的事業。だから医療機関は公的存在であるべき」と主張している。(この理念の下、当院の毎月の診療報酬をSNSで公開している)。

日本人は病院が経営のために広告まで使って患者を集めることに何の違和感も感じていないが、それは世界標準ではありえない話だ。

留置場を満員にしないと経営が成り立たない! と言って犯罪者を作り出す警察があったら恐ろしい話だが、医療では同じようなことが何の疑問もなく、あたかも市民のためと言わんばかりの善人面で行われているのである。

森田洋之『日本の医療の不都合な真実』(幻冬舎新書)
森田洋之『日本の医療の不都合な真実』(幻冬舎新書)

ノーベル経済学賞の最有力候補だった故・宇沢弘文(元東京大学教授)は、医療を警察・消防・教育等と同じ「社会的共通資本」と捉え、こう言っていた。

「医療や警察・消防・教育等の社会的共通資本は、決して国家の統治機構の一部として官僚的に支配されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない」と。

診療報酬の上下や、それに対する医師会などの各業界団体の反応といった、表面的なニュースが世間をにぎわしているが、こうした医療システムの根本的課題をしっかり捉えてゆくことこそが、本当の課題解決に向かう道ではないだろうか。

多くの国民がこの問題意識を共有し、「そこじゃない!」と声を上げてくれることを願っている。

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