「どれだけ売るか」を売る側が決めている

一つは「情報と権力の非対称性」、そしてもう一つが「モラルハザード」である。

「情報と権力の非対称性」とは、医師と患者側で持っている医療情報に差があること、そして医師・患者間の関係性・権力に差があること、を意味する。

入院や外来受診頻度を決めるのは、多くの場合「医師の側」である。

当然だが医師は医療情報に詳しく、また権力構造的にも患者に指示を与える立場と見られており、こうした立場になるのも当然のことだといえる。

現場の感覚で言えば、逆のパターン(患者側から入院の適応や、外来受診の頻度を決めるパターン)はほぼゼロと言っていいだろう。

つまり、医療というサービス商品は、どれだけ売るか、を売る側が決めている商品、ということになる。

医療は「モラルハザード」に陥っている

一般的な商品なら、そこで経済的要因がブレーキになる。つまり、いくら売り手にすすめられても、価格が高ければ、消費者側は躊躇ちゅうちょするのが普通だ。

しかし、医療においてはその論理がほぼ役に立たない。

なぜなら、健康保険という大きな補助があるからだ。

特に高齢者の場合自己負担が1割しかないことが問題だ。

例えて言うなら、5000円のフランス料理を500円で食べられるようなものだ。

しかも、そのフランス料理を食べる頻度は、あろうことかフランス料理店が決めているのである。

調理場で料理を作る料理人
写真=iStock.com/pidjoe
5000円のフランス料理を500円で食べられるようなもの(※写真はイメージです)

これではフランス料理が必要以上に売れまくるのも当然ではないか。

街中が3食フランス料理を食べ、しかも大量に廃棄している。そんな光景も目に浮かぶ。

もちろん医師側が500円の収入で我慢しているというわけではない。残りの4500円は健康保険や税など国民から集めたお金で支払われるのだ。

これこそ医療が陥っている「モラルハザード」である。

以上の2つの理由から、必要以上の医療が提供されているのである。