生涯のみ続ける薬

翌朝から、私のもとへ新しい薬が届きました。チラージンです。甲状腺をすべて摘出したことで、私の身体は甲状腺ホルモンを一生作ることができなくなりました。なので、これを生涯補充する必要があるのです。

廣橋猛『がんばらないで生きる がんになった緩和ケア医が伝える「40歳からの健康の考え方」』(KADOKAWA)
廣橋猛『がんばらないで生きる がんになった緩和ケア医が伝える「40歳からの健康の考え方」』(KADOKAWA)

前もってこの覚悟はしていたので、これから生涯お世話になるチラージンとの出会いに、むしろ親しみさえ感じていました。届いたときは感慨深く、こう呟いていました。

「チラーヂンさん、よろしくお願いします」

今後、定期的な血液検査を受けながら、このチラーヂンの量を調整していくことになります。不足していると甲状腺機能低下症になり活気が落ちてしまいますし、量が多すぎると甲状腺機能亢進こうしん症となり動悸どうきなどの副作用が生じるはずです。

もし、この薬を飲めないでいると大変なことになってしまいます。まさに私にとっての生命線です。地震や火事といった天災が生じたときなど、チラーヂンが足りなくならないように気をつけなければなりません。

がん患者になると薬が増える

また、増えた薬はチラーヂンだけではありませんでした。採血の結果で分かったのですが、術後の合併症として予想されていた副甲状腺機能低下症になってしまったのです。これは手術に問題があったわけではなく、どうしても一定の確率で生じることは理解していました。おそらく数カ月のうちに回復するという説明も受けていました。

この副甲状腺機能低下症により、血液中のカルシウムという成分が不足してしまうので、これも補充する必要がありました。チラーヂンは小さい錠剤で、しかも1日1回で飲みやすかったのですが、カルシウムは細粒の薬で、口に残ってしまい飲みにくいことに閉口しました。しかもこちらは1日3回飲まなくてはなりません。

こうやって薬がいくつも増えた私は、また1つ患者さんらしくなったのでした。

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