患者になってわかった病院の不快さ

最初の夜、消灯時間を迎えて、私はそろそろ寝ようかと思ってベッドに入りました。病室のベッドは、どの病室でも共通と思われますが、いわゆる介護用の電動ベッドです。

私はこれまで多くの患者さんに、介護用のベッドの利用を勧めてきました。体力が弱ってきたとき、自分で起き上がるのが大変になるので、早めに利用する方が楽で安全ですよという説明をしてきたのです。

しかし、いざ、私が介護用のベッドに横になったとき、強い衝撃を覚えました。柵に囲まれて寝るという不快な感覚。これだけで気持ちは落ち着かなくなります。もちろん楽で、安全なのだけれど、それと引きかえに大切なものを失ったような感覚を覚えたのです。がん患者になって、初めて知ることができたこの感覚。この感覚を忘れずに、これからの患者さんとの関わりに活かしていきたいと思った夜でした。

病院の介護用ベッド
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入院患者にプライバシーはない

翌朝には医師たちの回診がありました。病院において、とくに外科系の医師たちは、朝早めに回診することが多いのは知っていました。昼間は手術など多忙であるため、その他の患者の回診は早めにしなければならないという事情があるのです。

ただ、患者の立場になってみると、実際にいつ回診に来るのかは分からず落ち着きません。こちらは着替えやトイレ、洗面などをしているかもしれませんし、食事や電話中のこともあります。部屋のドアに鍵はかからないので、医師たちはノックしてすぐ部屋に入ってきます。プライバシーもへったくれもありません。これは看護師など、他の人たちの訪室でも同じことが言えますね。

私たち医療者が普段、入院中の患者さんの部屋を訪れるときに、そういったことへの配慮は十分ではなかったことに気づきました。もちろん、ノックをしたり、声をかけたりして入るようにはしていますが、あくまで医療者のペースで動いています。急に誰かが来るかもしれないというストレスを、患者さんが抱えていること。この体験も私にとっては新鮮なものでした。