膵臓がんは早期発見が難しく、見つかったときにはステージが進んでいることが多い。東京女子医科大学消化器・一般外科の本田五郎教授は「急いで取りたがる人は多いが、ステージ1以上の膵臓がんは早く手術すればよいというものではない。焦って手術をすると抗がん剤治療が十分できず、治るはずのものが治らないこともある」という――。

※本稿は、本田五郎『膵臓がんの何が怖いのか 早期発見から診断、最新治療まで』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

ヒト膵炎の解剖学モデル
写真=iStock.com/Panuwat Dangsungnoen
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「膵臓がんは手術だけが唯一の根治的治療」は本当か

よく膵臓すいぞうがんの専門医療機関のホームページを開くと「膵臓がんは手術療法だけが根治のための唯一の道です」といった案内が書いてあります。膵臓がんに関する一般向けの本やサイトにも、しばしば同じようなことが書いてあります。外科医である私が言うと少々違和感があるかもしれませんが、このフレーズを鵜吞みにしてはいけません。巧妙に言葉のトリックが仕組まれています。

「膵臓がんを根治するために、何とかして手術ができる状況にこぎつけて、とにかく手術をしましょう。そうすれば助かります」という意味に解釈する人も結構いるのではないでしょうか。

ステージ1以上の膵臓がんの多くが、手術だけでは治せません。2012年に集計された日本膵臓学会の過去27年間の全国調査データでは、ステージ1の5年生存率がだいたい60〜70%、そして、ステージ2だと15〜30%くらいに一気に下がります。この全国調査データに登録されたステージ1や2の患者さんのほとんどが手術を受けていますので、これは手術でどのくらい治ったのかを示したデータと理解してよいと思います。