局所治療では拾いきれないから全身治療が必要

不良細胞にたとえて話をいたしますと、教室の壁や窓を壊さないちょい悪の不良や本物の不良はもちろんですが、教室の壁や窓を壊しても校舎の外には出て行っていないチンピラくらいまでなら、校舎ごと撤去するか焼き払うことで完全に退治できます。ここでは校舎ごと撤去するか焼き払うまでが「局所治療」ということになります。

ところが、膵臓がんはいったんチンピラになると早々にやくざになって、さらに広域暴力団や国際マフィアになっていきます。いったん広域に活動し始めて、各地で新たに組事務所を構えればすぐに見つかりますが、閑静な住宅地の一軒家にひっそりと住んでいたり、スラム街の中で屋根裏部屋をアジトにしていると、一人ずつ見つけてつかまえるのは至難の業ですし、見つけたとしても、ひとつひとつをしらみつぶしに撤去して「局所治療」を繰り返すのは非常に困難です。

そこで、チンピラややくざが好んで食べる毒物を日本中、世界中に大量にばらまく方法で対抗することになります。つまり「全身治療」です。ここでたとえた「チンピラややくざが好んで食べる毒物」というのが「抗がん剤」のことになります。抗がん剤について、もう少し説明しましょう。

膵臓がんに有効な抗がん剤が複数生まれ、5年生存率は上昇

がん細胞の、特徴的でもっとも厄介な行動は次々にクローンをつくること、すなわち「細胞分裂」です。細胞分裂の際にはいろんな工具や原料が必要となるのですが、その工具や原料を壊したり偽物として紛れ込んだりして細胞分裂の邪魔をするのが抗がん剤です。

ちなみに、正常な細胞も日々細胞分裂を行なっています。そのため、細胞分裂の盛んな組織や臓器ほど抗がん剤の影響を受けて副作用が起きやすくなります。典型的なのは白血球や皮膚、粘膜などです。

2000年代に入って、ようやく膵臓がんに有効な複数の抗がん剤が開発されて使用できるようになってきました。副作用が比較的軽く済むものもあり、患者さんが通常の生活を維持しながら、長期間にわたって抗がん剤治療を受けることも可能になってきました。

そのため、全体の5年生存率も徐々に高くなってきています。