抜擢したのはDJ経験のあるコンサルタント

そこで、穐田は部下たちに言った。

「ユーザー視点のグルメサイトを自分たちでつくろう」

ただ、担当する人材がいなかった。カカクコムはサイトに載せる商品を増やしていたから、社内に人は余っていない。グルメサイトを発足させるなら、専任者を採用しなくてはならなかった。それに、穐田はユーザー目線のグルメサイトだけで立ち止まるつもりはなかった。事業の延長として、旅行、不動産、自動車、冠婚葬祭といったさまざまなサービスのサイトを増やしていくことを計画していた。

まず、新規事業のために何人か採用した。コンサルタント会社、リクルート、投資会社にいた人間たちである。なかのひとりが今も食べログを率いる村上敦浩だ。慶應義塾大学経済学部を卒業し、アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)に就職。輝かしい経歴だけれど、穐田が注目したのは「アメリカでDJをやっていました」と履歴書に書いてあったこと。チャーミングな経歴だったから、村上に言った。

「うちに入社して、新規事業をやってみない? いくつか候補があるから」

村上はしばらく考えて答えた。

「食べるのが好きだからグルメサイトをやります」

穐田はサイトのアイデアや方向性を村上に話し、あとは村上が具体的にしていった。

グルメサイトを買収して育てるはずだったが…

当初、ゼロからサイトを立ち上げる気はなく、グルメサイト「askU 東京レストランガイド」(1996年から)を買収して成長させる予定だった。「askU 東京レストランガイド」は知る人ぞ知る口コミのグルメサイトだったのだが、事業化されていたわけではなく、コミュニティのままだった。

穐田はカカクコムを収益性の高いサイトに育てた経験から、「askU 東京レストランガイド」を改組して、広告を集め、有料会員を設定すれば、堅実な収益を確保できる事業になると考えた。

彼は「東京レストランガイド」を運営する会社の社長と交渉し、いったんは合意した。社長が提示した価格で買うと決めた。ところが、代表者である社長と合意したにもかかわらず、「白紙に戻したい」と言ってきたのである。事情を聞いてみると、株主から「カカクコムじゃなくて、他の会社にもっと高く売れ。入札にしろ」と言われたという。

「合意したじゃないか」と非難し、訴訟に持ち込むこともできたが、そこまでのことをするほど魅力のあるサイトかといえば、そうでもない。また、約束を守らない会社と関わりを持ちたくなかった。

そこで、買収に使う予定だった資金を村上にまかせて、自力でシステムを開発することにした。