大手グルメサイト「食べログ」は2005年のサービス開始以降急成長し、利用者数は1850万人で飲食店予約サービスの1位になっている(ニールセン デジタル2022年6~7月)。当時カカクコム代表だった穐田誉輝さんはなぜ食べログを始めたのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが書く――。

※本稿は、野地秩嘉『ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー 食べログ、クックパッドを育てた男』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

レストランで調理をする料理人の手元
写真=iStock.com/Gins Wang
※写真はイメージです

平日だけでなく、土日にも会食が入る日々

カカクコムはパソコンや周辺機器から始まり、家電製品などさまざまなジャンルへ扱いを広げていった。それは本のECから始まったアマゾンが扱い商品を増やしていったことと似ている。

ただし、カカクコムはあくまで価格を比較するサイトだ。アマゾンや楽天といったEC事業者とは正面切って競合するわけではない。カカクコムの収益の基本は登録料だ。販売店がサイトに情報を載せるためには審査があり、それを通れば登録できる。併せてアフィリエイトと呼ばれる成果報酬と広告収入がある。

ユーザーが増えるとともに、穐田はサイトに出店する販売店、EC事業者、そして、広告クライアント等との打ち合わせが増え、毎日のように会食するようになった。月曜日から金曜日まででは足りず、土日も含めて、取引先や関係者と食事することになったのである。

相手が店を決めることもあったが、穐田から誘うことの方が多かった。そうなると、会食の場所を設定しなくてはならない。

「おいしい」だけの情報では接待に使えない

その頃、会食の店を探すとすれば口コミか雑誌に頼るしかなかった。彼が参考にしていたのは光文社が出していた男性雑誌の『BRIO』をはじめとして『dancyu』など月に5~6冊の情報誌だった。すでにグルメサイトはいくつかあったが、少し不便だと感じていた。そうしたサイトは皆、店舗から掲載料をもらい、店舗側に寄り添うサービスだったから、どの店も「おいしい」と記載されていた。ユーザーからすれば選ぶことができない……。

穐田が食事する相手は仕事相手だ。おいしいだけでは困る。個室がある店なのか、店の主人の人柄はどうなのか、サービスはいいのか……。店側が出す情報ではなく、使った側の視点が情報に含まれていなくては判断できなかった。

その点、『BRIO』には店の主人のプロフィール、サービスの質まで書いてあった。

「この店は前菜のカプレーゼはうまいけど、パスタとメインはそれほどでもないから、前菜と白ワインを飲んだら、次の店へ行くべき」「ここは料理よりも主人の話が面白い。主人がずーっとくだらない話をしている。退屈な相手との接待には最高だ」

「ここは『個室あり』というので、行ってみたけれど、狭すぎてオヤジ4人で食事しているうちにストレスがたまった。料理はおいしいけれど、会食には使えない。ただし、デートにはいい。狭い個室を有効活用すること」

仕事相手との接待に使う店選びには味のよさは当然としても、ユーザー視点の情報が必要なのである。