レトロブームと言われて久しい。現代の私たちはなぜ、「レトロなもの」に惹かれるのか。背景について考えてみた。AERA 2023年11月6日号より。

神奈川県横浜市「六角橋商店街ふれあい通り」
撮影/山本有
神奈川県横浜市「六角橋商店街ふれあい通り」/闇市がルーツの商店街。東急東横線の白楽駅から歩いてすぐの立地だが、裏通りに突然現れるその「昭和へのタイムリープ感」がすごい

「古い屋根があって、万国旗が踊り、電球の明かりが灯っている。もうたまらない! ですね」

好きで好きでたまらない、そんな感じが伝わってくる。28都道府県の昭和を感じさせる「レトロな商店街」を訪ね歩き、今年9月には『昭和の商店街遺跡、撮り倒した590箇所』という著書を出した、山本有さん(48)。中学生のときに近所の古い市場に遊びに行き、宿題の「自由勉強帳」に体験をまとめて先生にほめられたのがきっかけで、魅力にはまったという。

無駄という名の芸術

山本さんにとって「刺さる」商店街とは、まずアーケード(屋根)があることだ。

「屋根があると商店街としての雰囲気はぐっと良くなりますね。『密度感』が増し、落ち着くんです。あとは営業している店がたくさんあること。やはりお客さんがわさわさとたくさん歩いている商店街は最高です」

たいていは多くの店が開いている平日の日中、コンパクトデジカメを持って訪れる。いつも多くの発見があるという。

「建物の壁にある古い広告の文字が『右書き』なのでこれは戦前からの商店街かな、とか。自動車の整備工場に『スバル360』の看板を見つけてその歴史を実感したり。私は必ず買い物もして、地元の人が集まる定食屋に入ったり、お金をわずかでも落としていくことをマイルールにしています。お店の人と商店街の歴史など他愛のない世間話をして過ごす。そんな触れ合いがあると楽しさ倍増ですね」

SNSで届くコメントなどからも、いまレトロな商店街に惹かれる人が多いことを実感するという。なぜなのだろうか。

山本さんは、レトロな商店街を前にすると「いま撮らないと消えてしまう」という思いに駆られると言う。そういった「儚さ」に、山本さんが撮影した写真を見た人たちも惹かれるのではないかと分析する。

閉塞へいそく感を持ってしまいがちな今の時代背景もあると思います。レトロな風景が、自分が幼く何も悩みがなかった時代、若くて夢に溢れていた時代の記憶を呼び起こすツールになっているのかもしれません」

Z世代の若い人たちをも引き付ける力がある、とも語る。

「昭和の建物の建築様式やデザインは、いまなら『無駄だ』と排除されるような独特の凝ったものが多いんです。そんな『無駄という名の芸術』が醸し出す艶に、理屈抜きで惹かれているのかなと感じています」

自分が生まれる前の時代のレトロなものにグッとくるのは、なぜなのか。その気持ちが「とてもよくわかる」と話すのは、メディア史が専門の茨城大学教授、高野光平さん(51)だ。