関西の私鉄沿線の「格差」が広がりつつある。フリーライターの新田浩之さんは「2009年に尼崎~大阪難波間を結ぶ阪神なんば線が開通したことにより、阪神電車の利用者数が激増している。また阪急も十三駅の再開発などで注目を集めている。一方、ローカル線の多い近鉄は低迷しつつある」という――。

※本稿は、新田浩之『関西の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。

阪急電車
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定期券利用者の伸び率1位だった関西の鉄道

国土交通省は毎年、鉄道統計年報を公表している。そのなかに運輸成績表があり、各鉄道会社の輸送人員や輸送人員定期構成比などを確認することができる。ここから、興味深い考察が見えてくる。

まずは、2012(平成24)年度からコロナ禍直前の2019(平成31/令和元)年度までの輸送人員の変遷を見ていきたい。

2012年度の成績を100とすると、2019年度の定期券利用者は阪急112、阪神115、京阪110、近鉄101、南海103だ。

次に2019年度の定期券外の利用者を同様に見ていこう。結果は阪急101、阪神107、京阪101、近鉄101、南海112となる。

定期券利用者の伸びは、阪神が1位となった。要因は、2009(平成21)年開通の阪神なんば線の影響が考えられる。

阪神なんば線の開通により、阪神間と難波が1本で結ばれた。所要時間もさることながら、定期券代がJR経由より安くなったことも大きい。定期券以外の利用者も堅調な伸びを示していることから、阪神なんば線は大成功を収めたといっていいだろう。

京都に来る外国人客が使う路線

2位の阪急も健闘した。阪急は新線を開業してはいないが、景気回復により「阪急沿線に住みたい」と思わせる「阪急ブランド」の復活と安定した輸送サービスの賜物だろう。

一方、最下位は定期券、定期券外共に近鉄となった。近鉄は都市部だけでなく、多数のローカル線も抱えている。ローカル線の本数削減を主としたダイヤ改正から推察するに、ローカル線の低迷が運輸成績に響いているようだ。

定期券外、すなわち定期券を持たない利用者も見てみよう。伸び率1位は南海である。好調の要因は海外からのインバウンド客だ。ご承知の通り、南海は関西空港へのアクセス路線であり、JRと比較すると運賃が安い。コロナ禍により、インバウンド客は大幅に減少したものの、円安などの影響により、復活傾向にあるといってよい。

一方、阪急、京阪、近鉄は世界有数の観光都市京都を沿線に抱えるが、南海とは異なり、成績は横ばいであった。京都で宿泊するインバウンド客は関西空港駅から京都駅直通のJR特急「はるか」の利用が一般的なのだろう。