感染増で合併症になる人が増える

こうしてインフルエンザに感染する人が増えると、合併症を伴う人も増えます。気管支や肺のことを下気道と呼びますが、肺炎などの下気道炎を起こしたり、中耳炎、クループ症候群の原因になったりすることもあるのです。

2009年には「H1N1亜型インフルエンザウイルス」が、重度の呼吸不全に陥る「急性呼吸窮迫症候群」を引き起こすことが問題になりました。気管支から分泌される粘液が“鋳型いがた”のように気管支を閉塞へいそくして呼吸状態を悪くする「鋳型気管支炎」という命に関わる病態になることもあります。

そして何より子どもの場合は、インフルエンザ脳症のリスクを忘れてはいけません。インフルエンザ脳症は、日本で年間100〜300例発症し、そのうち7〜8%が亡くなる恐ろしい病気。患者さんの70〜90%が15歳未満で、特に9歳までに多いのが特徴です。けいれんや意識障害だけでなく、脳の浮腫や壊死えしを起こしたり、全身の多臓器不全を起こしたりすることがあり、救命できても約15%には重い後遺症が残ります。治療法としては、点滴で抗インフルエンザ薬を投与するとともに、けいれんを止め、脳への影響を減らすために人工呼吸管理をして集中治療を行います。が、直ちによくなるわけではありません。だから、小児科医はインフルエンザワクチンをすすめるのです。

感染予防&重症化予防のW効果

インフルエンザウイルスにはさまざまな型があり、流行する型は毎年違います。そのためインフルエンザワクチンは、毎年次シーズンに流行する型(4種類)を予想して作られます。ですから、流行型とワクチンが一致しないこともあるのです。

インフルエンザワクチン
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しかし、それでもインフルエンザワクチンが推奨されているのは、6歳未満において約50〜60%の確率で予防することができるため(※2)。さらに、たとえ感染した場合でも、重症化を防ぐことができるからです。アメリカの研究では、インフルエンザワクチンの接種によって、2010〜2012年のシーズンに小児集中治療室に入るリスクを74%も減らしたことがわかりました

一方、いまだに前橋レポートを根拠に「インフルエンザワクチンは効果がない」と主張する人がいますが、これは大間違いです。前橋レポートは、インフルエンザの迅速診断キットがまだ存在しなかった1987年に、インフルエンザワクチンを受けた地域と受けなかった地域を比較し、どのくらいの人がインフルエンザの診断を受けたかを比較した研究です。現在までにもっと精度の高い研究が次々に行われ、上記のように発症予防効果や重症の合併症予防効果が証明されています。

※2 3歳未満小児におけるインフルエンザワクチンの有効性:2018/19~2019/20シーズンのまとめ(厚生労働省研究班報告として)