「生態系保全は責務だ」という主張はハリボテ

川勝知事は11月9日の会見をはじめさまざまな機会で、「南アルプスの生態系を保全するのは国際的な責務である。なぜなら、ユネスコエコパークに登録されているからだ」など理念的な発言を繰り返し、JR東海に自然環境変化の事前予測を求めている。

リニア工事の影響範囲だけを取っても、事前予測するためには具体的な現状がわからなければ、JR東海は手を打ちようがない。実際の南アルプスはニホンジカの食害によって、数年で大きな変化を強いられている。

つまり、増え続けるニホンジカの自然環境への影響をきちんと把握できていない状況の中で、静岡県は、事業者のJR東海に生態系への影響の事前予測を押しつけている。これでは、何らの説得力もない。

南アルプスの自然環境保全は、国立公園地域を管轄する環境省とともに、山小屋や登山道など国立公園地域の管理を受け持つ静岡県に責任と役割がある。

川勝知事は南アルプスの現状を全く承知しないで、南アルプスの自然環境保全の責任をJR東海に押しつけ、言い掛かりをつけているに過ぎない。

ここでも“裸の王様”川勝知事の無責任なデタラメだけがはっきりと見える。

南アルプスのお花畑はシカに食べつくされてしまった

南アルプスは、数多くの固有種、遺伝種が見られ、植物相が多様であり、樹林帯が垂直分布し、一体性のある地域と高く評価されている。

しかし、南アルプスの多様な自然環境はニホンジカの食害によって、大きく変わってしまった。

環境省によると、1979年夏には見事なお花畑が広がっていたが、2005年夏には草原となってしまい、2010年夏にはとうとう草原も消え、石ころが目立つ状態となった。

南アルプスの高山植物が破壊された状況(環境省パンフレットより)
南アルプスの高山植物がシカの食害により破壊された状況(環境省パンフレットより)

まさに、ニホンジカにすべて食べつくされてしまった状態であり、多様な植物相にとって、最大の危機状況にあると言える。

南アルプスでは、リニア工事着工にかかわらず、生態系の深刻な被害に直面しているのだ。