ふたりとも“男気”を持っている人だった

そこにいた連中はいつも損ばかりしているから、「色川さん、よかった。もうかった。今のうちに、この金で飲みにいきましょう」と盛り上がる。

すると、色川さんがぽつりと言われました。

「どうだろうか……。たったそれくらいの金で、ひとりの女の子の人生を決めてしまうというのは……」

その言葉を聞いて、みんなハッと我に返り、メッセンジャーを呼んで金を戻しました。

つまり、色川さんという人は基本的な正義を持っている人なんだ。男気と言い換えてもいい。そして、私にとっての高倉健はまさしくそういった基本的な正義を体現している人だ。

だから、色川さんの役を高倉健がやったとしても少しもおかしくない。

しかし、思えば色川さんも高倉さんも“覚悟の人”です。私はそんな立派な人に囲まれて生きてきた。立派じゃないのは私ひとりだけだ。

知り合って三十数年になりますが、お目にかかるのは数年に一度あるかないかです。

最近では『あなたへ』の撮影現場で、健さんとビートたけしさんが私の話をしたという噂を聞いたくらい。会う機会は少ないのだけれど、縁は切れないんです。

父親の命日には、必ず花束をくれた

うちの父親は芸能人を誉めない人だった。だが、高倉健に関してだけはいつも『彼は違う』と言っていた。

もっとも芸能界だけじゃなく、私が小説を書いていることも認めない父親で、「おまえ、つまらない仕事を選んで」としじゅう、呆れられていた。

私としては父親を納得させるためには、父が唯一認めた俳優が主演するものの原作を書くしかないと思っていたんだ。

その父親が亡くなった。すると、健さんから花が届いた。その後、毎年、命日には必ず花を頂く。何とも言えない。

ほとんど会うことなどないのに。日頃、手紙や言葉を交わすわけでもない。それでもあの人は私の父親の命日を忘れない。

そんな人です。

花束
写真=iStock.com/shironagasukujira
※写真はイメージです

また、私自身も健さんが映画の撮影に入ったからといって差し入れを持って挨拶に行ったことは一度もありません。

行こうとも思わない。私が健さんに持っていくべきものはアンパンや果物じゃなくて、映画の原作だろうって気持ちがありますから……。この三十数年のことを考えると、高倉健は私にとっては、“見果てぬ夢”なんです。

あの人がいる限り、あの人に向かって作品を書き続ける。かなうようでかなわない夢。

そんな人はなかなかいない。なぜ、あの人のことを見果てぬ夢と思うかといえば、高倉健という人もまた"見果てぬ夢"を追って生きているように感じてしまうんです。