高齢化で農業の担い手が減っていることで、主食であるコメの生産が危機的状況に陥るという報道が相次いでいる。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「報道の前提が間違っている。減少しているのは非効率な小規模農家なので、むしろ農家が減ったほうが効率化が進み、生産量が増える可能性がある」という――。
農業従事者
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農家が減るとコメ不足になるのか

2023年11月26日のNHKスペシャルは「シリーズ 食の“防衛線” 第一回 主食コメ・忍び寄る危機」 と題して、農業収益の減少や高齢化による農業労働力の減少によって2040年には米の生産が需要を賄えないほど大幅に低下すると主張した。これは、間違っているだけでなく、コメ政策の根本的な問題から国民の目を逸らすものだ。

こうした報道に接するのは2回目である。

2023年9月18日付の日本経済新聞「農家が8割減る日 「主食イモ」覚悟ある?」は、2050年まで国内の農業人口が8割も減少し、生産が激減するので、国民に必要なカロリーを供給するにはイモを主食にしなければならないと主張している。この記事は、2050年にかけて、農家経営体数は84%減少し、農業生産額は52%減少するという三菱総合研究所マンスリーレビュー2022年12月号の「2050年の国内農業生産を半減させないために」を基にしているようだ。

NHKスペシャルでも、2040年にはコメの生産量は351万トンで156万トン不足するという三菱総合研究所の試算を紹介している。日本経済新聞の記事等については、元日本銀行政策委員会審議委員の原田泰氏が、次のように批判している(「農家が8割減って「イモが主食」は本当?→むしろ日本の農業に好都合なワケ」2023年10月2日付ダイヤモンドオンライン)。

「販売金額の少ないところでは多くの経営体があり、販売金額の多いところでは経営体数は少ない。農産物の販売は、金額の多い経営体に集中している。数でいうと11.8%の経営体が、販売額の77.8%を占めている。すなわち、経営体が9割減っても、8割の生産物を維持できる」。また、規模の大きい層の生産は拡大しており、小さな経営体が廃業しても規模の大きい層が農地を吸収するので供給には心配はないとする。

農業を専門にする私が指摘しなければならないことを原田泰氏に指摘していただいたようである。実際にも規模が比較的大きい5ヘクタール層が耕作する田の面積シェアは2015年の42.9%から2020年には53.1%に増加している。日本経済新聞の記者も三菱総合研究所の担当者も農業についてはアマチュアなのだ。