安直な「農業保護強化」は国民負担を高める

NHKスペシャルは、米価(60キログラム当たり)は、1995年まで食糧管理制度で政府がコメを買い入れていた時代の2万1000円から年々下がり、今では1万4000円になっていると指摘している。農業保護が少なくなって農業収益が落ちたので、農業者数が減少し、耕作放棄が増えたのだと言いたいのだろう。

しかし、農業収益を上げるために農業保護を高めるというのは安直な方法である。米価を上げれば消費者が、補助金を上げれば納税者が負担する。つまり、国民の負担増加に跳ね返るのである。国民負担を高めることなく、規模拡大でコストを下げて農業収益を上げるという王道は、NHKスペシャルでは触れることもなかった。

それだけではない。少しでも経済の勉強をした人なら、需要が高まれば価格は上がり、供給が増えれば価格は下がることを知っている。農業就業者数が減少して供給が不足しているのであれば、米価は上昇しているはずなのに、NHKスペシャルが指摘するように、その逆である。NHKスペシャルが報道した主張と事実は大きく矛盾しているのだ。

米価が下がってきたということは、(農業就業者数は減少しているにもかかわらず)供給が需要を上回って推移したということである。将来農業就業者数が減少しても、コメの供給に心配いらない。NHKスペシャルが一生懸命指摘しようとした問題は、そもそも存在しないのだ。

食料危機を招く本当の原因は「減反政策」

これまでも、将来も、供給は需要を上回り続ける。だから、米価の低下をできる限り抑えるため、補助金で供給を減らして米価を市場で決まる価格よりも高くする減反(生産調整)政策を50年以上も続けているのだ。

減反を止めて、カリフォルニア米並みの収量のコメを作付けすれば、コメの生産は今の670万トンから1700万トンまで拡大する。国内で消費しないコメは輸出する。小麦等の輸入が途絶する際は、輸出していたコメを食べればよい。併せて二毛作を復活させて麦生産を増やせば、食料自給率は70%まで上がる。正しい政策は減反の廃止である。

1960年から世界の米生産は3.5倍に増加したのに、日本は4割も減少した。NHKスペシャルもコメは主食だという。しかし、農業界は、食料危機の際に最も頼りになるコメの生産を毎年3500億円もの減反補助金を出して減らしてきたのだ。減反を廃止すれば、コメの生産が拡大するうえ、3500億円の国民負担がなくなる。

輸出はいざというときの無償の備蓄の役割を果たすので、現在100万トンのコメ備蓄にかけている500億円の財政負担も不要になる。国民は食料安全保障を確保したうえで、併せて4000億円の国民負担を解消できる。

6月の田植え後の風景
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