「税金」と「高価格」の二重負担を課せられている

NHKスペシャルはスイスの農業保護政策を紹介していたが、OECDによると、日本の農業保護は、EUや中国の2倍以上、アメリカの4倍以上である(※)。食料安全保障のためだと言われて、国民は高い関税を負担して国産農産物だけでなく輸入農産物にも高い価格を支払ってきた。この消費者としての負担は4兆円を超えるうえ、国民は納税者として農業保護のために2兆円ほどの財政負担を行っている。

特に、減反政策は、補助金を農家に与えて生産を減少させて消費者が購入するコメの価格を上げる、つまり納税者と消費者に同時に負担させるという、他に例を見ない異常な政策である。減反補助金を負担する納税者、高米価を強いられる貧しい消費者、取扱量減少で廃業した中小米卸売業者、零細農家が滞留して規模拡大できなかった主業農家、なにより輸入途絶時に十分な食料を供給されない国民、一部の既得権者を除いて、全てが農政の犠牲者だ。

升に盛った精米された米と、稲穂
写真=iStock.com/hungryworks
※写真はイメージです

※「Agricultural Policy Monitoring and Evaluation 2023」の国別レポート、「日本」「EU」「中国」「アメリカ」に記載された2020~22年の%PSE(Producer Support Estimate、農家の受取額に占める価格支持と財政負担の割合)から筆者が算出。

得をしているのはJA農協

では、誰のために減反政策は維持されるのか。

JA農協は、銀行以外の業務を行える日本で唯一の法人である。銀行事業で2349億円、保険事業で1323億円、これで272億円の農業部門、255億円の生活事業部門の赤字を補塡ほてんしている(2021年)。米価を上げることで滞留した零細な兼業農家のサラリーマン収入や農地を宅地等に転用した膨大な売却益はJAに預金され、JAは、貯金額100兆円を超える日本トップレベルの銀行となった。JAはそれをウォール街で運用して巨額の利益を得た。米価が下がり零細兼業農家が農業をやめて組合員でなくなれば、こうした利益はなくなる。減反による高米価はJAのためである。

JA農協は農家戸数や農業従事者の減少を食い止めるに組織的な利益があるのだ。逆に農家戸数が減少すると政治力が減少する、農家、特に兼業農家が減少するとJAバンクの預金額が減少するというデメリットがある。JA農協は、これをなんとか食い止めたいと考えているのではないか。

NHKスペシャルに出演したJA農協関係者の発言とは異なり、JA農協は懸命になって減反=コメの生産減少の音頭をとってきた。そのJAの利益を守る農林水産省は「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」とする日本国憲法に違反している。減反の問題を指摘できない公共放送も同じなのだろう。しかし、われわれはJAの利益を守るために受信料を払っているのだろうか?

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