「イチゴ農家」と「コメ農家」を一緒に論じてはいけない

農業を議論する人たちに共通の問題がある。

製造業には、自動車産業、繊維産業、鉄鋼業、セメント工業など、異なる業種がある。工場で生産される点で共通するところがあるとしても、自動車とセメントを同じように議論する人はいないだろう。農業も同じである。土地を多く使用するコメや小麦などの農業と土地よりも労働が必要な野菜や果樹などの農業は、生産も経営も全く異なる。自然や生物を相手にするという点で共通しているだけである。さまざまな農業があるのに、国民の多くは、農業は全て同じだと考えてしまうのである。

確かに、イチゴやブドウ農家は多くの労働を必要とする。コロナ禍で外国人研修生がいなくなって悲鳴を上げたのは、彼らである。しかし、NHKスペシャルが対象に挙げたコメは違う。機械化の進展で、都府県では標準的な1ヘクタール規模のコメ作なら、年間27日だけの労働で十分である。

【図表2】10a当たり労働時間/年
出所=農林水産省『農業経営統計調査』

コメ作に多くの労働力は必要ない

確かに1951年では、年間251日の労働が必要だった。米と書いて八十八手間がかかると言われた時代だった。しかし、機械化が進み、今のコメ作りなら、平日会社勤めをするサラリーマンが週末田んぼに出るだけですむ。最も手間暇のかからない農業なのだ。さらに規模が大きくなると、面積当たりの労働時間はいっそう減少する。