宇津木妙子(ソフトボール元日本代表監督)
秋空の下、女子ソフトボール日本代表の元監督、宇津木妙子のノックがつづく。小、中学生の男女、ざっと40人のスポーツ教室だった。59歳とはいえ、「速射砲ノック」の迫力は衰えない。
指導が終わる。宇津木は最後、集まった子どもたちに笑顔で語りかけた。「ちゃんと叱ってもらっているか〜?」
小学生の男の子が元気よく、返事する。「はい。叱ってもらっているよ」。宇津木はうんうんとうなずくのだった。
「よかったねえ。おとうさんやおかあさんがなぜ、叱っているかわかるか。みんなのことを思っているから叱るんだ。みんなに伸びてもらいたいから叱るんだよ」
宇津木が続ける。「もし、おとなが叱ってくれなかったら、みんなどう思う?」と。小学生たちが次々に答えた。「悲しい」「さみしい」「見捨てられていると思う」
宇津木は実は、子どもたちに語りかけているようで、付き添いの親たちに訴えているのだった。子どもたちに愛情があるなら、どんどん叱ってください、と。
努力の人である。現役時代は日本代表の名三塁手として活躍し、コーチを経て、1997年には日本代表の監督に就任した。2000年シドニー五輪で銀メダル、04年アテネ五輪では銅メダルにチームを導いた。
スパルタ指導で鳴るが、愛情に支えられた指導である。だから、いつまでも選手たちに慕わられている。この日のスポーツ教室も北京五輪金メダリストの佐藤理恵、伊藤幸子がかけつけてきた。
「なぜ、厳しい監督と言われたかというと、選手のことがかわいくてしょうがなかったんだ。なんとか成長させてあげたかった。でも、むやみには叱らないよ。できる力があるのに、いい加減にやったりしたら叱ったものだ」
現在は、東京国際大学の女子ソフトボール部の総監督、ルネサスエレクトロニクス高崎のシニアアドバイザーを務めるほか、NPO法人ソフトボール・ドリームの理事長としてスポーツを通した人づくりに情熱を傾ける。
「親にだって言うよ。子どもを叱ってあげてよって。子どもがダメな時は、見て見ぬふりじゃなく、ちゃんと向き合ってしからなくちゃ。他人の子もしっかり叱ってあげなくちゃいけない。おとなは子どもを導かないといけないんだ」