大久保直弥(サントリーラグビー部監督)
監督業は、楽ではない。ましてや偉大な指導者の後継者は。日本代表の監督に就任したエディー・ジョーンズ氏から王者サントリー監督のバトンを引き継いだ。
「みなさん、わたしをエディーさんと重ね合わせますけれど、まったく比較になりません」と、37歳の新監督は小さく笑う。きっと誠実で照れ屋。「サントリーのアタッキング・ラグビー(攻撃ラグビー)のスタイルは引き継ぎます。ただ自分は年齢的には選手に近いですし、ふだんのコミュニケーションが一番大事だと思っています」
高校時代はバレーボール部に在籍。法大進学後にラグビーを始め、サントリーに入社、日本代表にまで上りつめた。努力の人だ。1999年、2003年のワールドカップ(W杯)にも出場した。
09年に引退、一昨年からサントリーのコーチを務め、今季から監督となった。エディーからの「監督であっても必ず、担当を持ちなさい」という教えに従い、コーチ時代に引き続き、ブレイクダウン(タックル後のボール処理)を受け持っている。夏合宿でも手とり足とり、選手を指導した。
「一緒に体をあてて、一緒に練習をしています。監督でも、現場に立って、しっかりポイントはコーチングしないといけない。チームの成長度合いによって、言うことを少しずつ変えています」
きめ細かい指導の賜物だろう、8月31日のトップリーグ開幕戦(秩父宮)ではブレイクダウンで優位に立ち、うるさいNECを圧倒した。新主将のロック真壁伸弥が先制トライ、日本代表のプロップ畠山健介らもブレイクダウンで暴れた。
FWの経験値の差が出た、と大久保監督は総括した。「開幕戦はお互い緊張するもの。どちらが落ち着いて自分たちのやるべきことができるのか。うちが上回った。ゲーム中の視野が広かった」
初戦勝利にまずは安堵の色を浮かべる。だが「監督は緊張に終わりがない」とこぼす。「もう次のことしか考えていない。選手は終わって、ああ、よかったとビールを飲むけれど、監督はやる仕事で頭がいっぱいです」。試合日の夜。次の試合のために練習プランをたて、メンバーを確定したのだった。