青学はあくまで「箱根駅伝」が中心

青山学院のこれからの強化策、チームの方向性の打ち出し方にはひじょうに興味が湧く。いま、優勝を狙う学校ほど、海外遠征などを積極的に打ち出しているからだ。駒澤は卒業生の田澤廉がどんどん海外のレースに出場しているが、佐藤圭汰もそれに続くだろう。中央も吉居兄弟が冬にアメリカで高地トレーニングを行い、兄・大和は2023年の6月にはオーストリアのトラックレースに出場している。

そして、なんといっても順天堂の三浦龍司は22年9月にダイヤモンドリーグに出場して4位に入った。日本インカレとスケジュールがかぶっていたが、世界を優先した決断に強固な意志を感じた。そして4年生になり、23年6月のダイヤモンドリーグ・パリでは8分09秒91の日本新記録を出して2位に入っている。もはや「世界のミウラ」である。

長距離のエリートを預かる学校は、世界を意識した強化日程を組むようになってきたが、その点、青山学院は「1月2日、1月3日」を中心にした強化を進めているように見える。トラックのシーズンでも、かなり走り込みを意識した練習を組み、スピードよりも地力をつけようという意図が見える。

これからこの方針を維持するのか、それともアディダスとのパートナー関係を生かして、海外でも経験を積める路線を打ち出すのか。その点に注目が集まる。

必然的に青学には「駅伝好き」が集まるように

私は、この方針は原監督が箱根駅伝のことが好きで好きで仕方がないからだと思っている。いまや、箱根駅伝は学生スポーツ界で最も影響力を持つ大会、いや社会的なイベントとなり、そこにはいくつかの「渦」が生まれている。その渦の数が他の競技会と比べて尋常ではないのだが、原監督の作る渦はとても大きい。

箱根駅伝で勝つこと、それは青山学院の陸上長距離ブロックにおける存在価値そのものにつながっているのが、ここ数年でハッキリしてきたように思う。私も、学生たちが「ウチは箱根駅伝で勝つことがすべてですから」と話し、メンバー入りを熱望する声を聞いてきた。

大学陸上界全体のこうした動きに、有望な高校生たちは敏感に反応している。高校生のなかでもエリート中のエリート、将来は世界で勝負したいと思っている学生たちは、海外に積極的に進出している学校を選ぶ傾向が強くなってきた。

特に、三浦を抱える順天堂大にはスピードランナーが集まりつつあるし、吉居兄弟がシンボルの中大に関心を寄せるエリートが増え、かなり早い段階で志望校として決める学生が増えた。中大は駅伝でも復活基調にあり、こうした勢いのある学校は、学生にとって魅力がある。

そうなると、青山学院のリクルーティングにおけるポジションが変わってくる。これまでも世代トップのランナーが入学はしていたが、このところは「駅伝が好き」な学生が青山学院を選ぶ傾向が強くなっている。2020年に入学した佐藤一世は「駅伝が大好きで、青山学院で優勝したかったので、青学を選びました」と話している。

箱根駅伝を重視する原監督と、駅伝というチームスポーツに惹かれる高校生は相思相愛ということになるわけだが、私の推測では、原監督も青山学院の学生、そしてOBから日本代表を出したいと思っているはずだ。

これまでの原監督の手法としては、学生のうちからフルマラソンを経験させ、土台を作ってから社会人に送り出すというスタイルを採ってきた。その流れのなかで、吉田祐也(GMOインターネットグループ)や、2023年の別府大分毎日マラソンで日本学生記録をマークした横田俊吾(JR東日本)が学生時代に好結果を残してきた。また、トラックでは田村和希(住友電工)が東京オリンピックの代表まであと一歩に迫るところまで力を伸ばしている。

さて、ここから誰かが一段上に行くことが出来るだろうか。卒業生の活躍はリクルーティングにも影響を及ぼすのだ。