学習形式とテストの形式が近いほど点数は上がる

その理由の1つは、「転移適切性処理説」(transfer appropriate processing theory)です。転移適切性処理説とは、学習の形式とテストの形式が近ければ近いほど、テストでのパフォーマンスが良くなる、という現象を指します。例えば、「和訳練習」と「英訳練習」の効果を比較するとします。和訳練習とは、「apple→りんご」のように、英単語を見てその和訳を思い出すことです。一方で、英訳練習とは、「りんご→apple」のように、和訳を見てそれに対応する英単語を思い出すことです。

和訳練習:英単語を見て、その和訳を思い出す。
例)apple→りんご
英訳練習:和訳を見て、それに対応する英単語を思い出す。
例)りんご→apple

リスニング学習はスピーキング力向上には非効率

和訳練習と英訳練習では、どちらの方が効果的でしょうか? その答えは、「どのように学習効果を測定するか」によって変わります。具体的には、以下のようになります。

和訳テスト:和訳練習>英訳練習
英訳テスト:和訳練習<英訳練習

つまり、和訳テストで学習効果を測定すると、和訳練習の方が英訳練習よりも高い得点に結びつきます。学習の形式(和訳)とテストの形式(和訳)が一致しているからです。一方で、英訳テストで学習効果を測定すると、英訳練習の方が和訳練習よりも効果的です。英訳テストと一致する学習形式は、和訳練習ではなく英訳練習だからです。

転移適切性処理説をふまえると、「聞き流すだけで英語が話せる」という主張は疑わしいと言わざるをえません。転移適切性処理説によると、リスニング力をつける最も効果的な方法はリスニング練習をすることで、スピーキング力をつける最も効果的な方法はスピーキング練習をすることです。リスニング学習の効果がスピーキング力に波及する(=転移する)こともあるかもしれませんが、その程度はあまり高くありません。

ヘッドフォンを着けた女性
写真=iStock.com/fizkes
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