実力差が大きいと試合そのものが危険
一方で、有力私学と言われる学校は、専用のグラウンドや室内練習場、筋トレ施設などを持ち、多くは夜間練習施設も完備している。さらに甲子園で実績を挙げた指導者、トレーナーなどが選手をきめ細かく指導している。
球数制限の導入もあって、複数の投手を整備する高校がほとんどだが、こうした有力私学では時速150キロの球速を出す投手が複数いることも珍しくない。
今の地方大会は、こうした有力私学と、試合に出るのが精いっぱいの連合チーム、弱小校が公式戦で対戦している。大会にはシード制があるからトップ校と連合チームがいきなり対戦する可能性は少ないが、それでも春季大会の成績などでシードを外れた有力校が、弱小チームと対戦することはしばしばある。
ある高校野球の審判は「実力差があまりにも大きい学校の試合は危険だ。有力校の選手の打球を避けることができない選手もいる。いつ体にボールが当たって大けがをする選手が出てもおかしくない」と懸念を口にする。
さらに言えば、昨今の酷暑についても格差がある。有力私学の選手たちは、連日炎天下で練習し、それが結果的に暑熱対策になっている(それでも試合出場による熱中症のリスクは高いが)。週に1回程度しか練習をしていない連合チームなどの弱小校が、いきなり酷暑のグラウンドで試合をするリスクの方は有力私学よりはるかに大きい。
地方大会の形骸化
甲子園のベンチにはエアコンが設置され、炎天下でもベンチ内は27度に保たれている。また効果について賛否はあるにせよクーリングタイムを設け、足がつった選手は理学療法士がマッサージなどの応急手当てをしている。
しかし地方大会の会場で、ベンチにエアコンが設置されている球場はほとんどない。地方でも医師や理学療法士は待機しているが、暑熱対策ができていない選手のリスクは非常に高いと言えよう。
こうした格差の拡大、さらには参加校数の減少によって、「形骸化」する地方大会も出始めた。
今夏の地方大会で参加校数が最少だったのは23の鳥取県と高知県だ。甲子園に出場した県立鳥取商と高知中央は、わずか4試合で甲子園出場を決めた。また、28校が参加した福井県でもシード校の北陸が4連勝で甲子園出場を決めた。全国最多の167校が出場した神奈川県大会では、慶應は7連勝しなければ甲子園に出られなかった。地域によって甲子園出場の難易度に差が出てきたのだ。
高知県では明徳義塾が過去10年(2013年~23年、2020年は中止)で8回夏の甲子園に出場、福島県では聖光学院が過去10年で9回出場している。両校ともに県内外から優秀な選手を集める有力私学だが、これらの高校は難易度の格差を利して、甲子園出場を寡占化していると言えよう。
部員の減少、環境の格差によって野球離れが進んでいるのは間違いない。この深刻な問題については、高校野球界だけでなく、日本野球全体が危機意識をもって対策すべきだと思う。