藤島ジュリー氏の手紙

そんな中、その「なぜ防げなかった」という問答をいったん収束させ次の段階に向かおうとしているのを、藤島ジュリー景子さんの手紙から感じた。

ジャニー喜多川もメリー喜多川も、お茶の間の私たちはほとんどの人が姿や声を見聞きしたことがない。つい最近までは都市伝説みたいな存在だった。

ジャニーズファンじゃなければ、「ジュリー景子って誰?」って感じだ。私もそうだ。

初めて見たジュリー景子さんが挨拶してる映像は、緊張して表情は固まりまくってるし、「ジャニーの姪」というキーワードしか知られていないジュリー景子が被害者を救済とか言っても、なんだかつかみようがなく漠然としていた。

ジュリー景子さんも、自分とジャニーとメリーの関係を公にしないと話が進められないと思ったのだと、井ノ原氏による手紙の朗読を聞いて感じた。

私の経験との共通点

ジュリー景子さんの手紙の「母メリーは私が従順な時はとても優しいのですが、私が少しでも彼女と違う意見を言うと気が狂ったように怒り、叩き潰すようなことを平気でする人でした」というところで、「え、私もだよー!」と思った。

私の母も、そういう感じだった。

私の母の「叩き潰したもの」は、私が友達と計画していた旅行とか、バイト先での私のメンツとか、そういうものだった。それでも心底、母との関係は耐えがたかった。

ジュリー景子さんは母との関係の中に、日本を代表する芸能事務所が絡んでいて、関係者もたくさんいて、私のように母と1対1での心労とはまた別の大変さがあっただろうと、その数行だけで伝わってくるものがあった。

ジュリー景子さんの手紙は続く。

「20代の時から私は時々、過呼吸になり、倒れてしまうようになりました。当時、病名はなかったのですが、今ではパニック障害と診断されています」

私も20代で過呼吸になり、パニック障害を患った。

“実の母との関係に苦しんでいる娘”にとって、パニック障害は非常にポピュラーな症状である。うつも多い。

ジュリー景子さんは、母メリーに切望されて孫を会わせることは受け入れていたが、自分自身はメリーと話をすることを極力避けてきた人生だったと綴る。

わかる。実の母と話ができない感じ。

母がこうしたいと思っていることに反対したり、母の計画にやめてくれと言ったり、あとはもうなんだかよく分からないけどただこっちは息して生きてるだけなのになぜか母の逆鱗に触れて激昂されることもあったり、そうなると全力でこちらの人格や生活や人生を叩き潰してくる。だから、それ以外の振る舞いは封じざるを得ない。

本当の自分の気持ちを分かってもらって、母のことも知って歩み寄ろうとしても、全くこちらの意図が通じなかったり、なぜか100倍の攻撃となって返ってくることもある。やたらと傷つき、自尊心が破壊される。そんな期間が長すぎて、「極力話さない」という選択をしてやっと、お互いとりあえず健康でいられる関係性。

ジュリー景子さんがかかった心療内科の先生が「メリーさんはライオンであなたはシマウマだから、パニック障害を起こさないようにするには、この状態から逃げるしかない」と教えてくれた、というのも手紙には記されている。

娘の言動で気に入らないことがあればどんな手を使ってでもそれをぶっ壊しにくるモーレツ系母と、その娘の関係をそのように例えるのも、母との関係に苦しむ子どもにとっては定番の表現だ。公認心理師で臨床心理士の信田さよ子さんは、そういう母娘を「猛獣と猛獣使い」と言い表している。実にピッタリな例えだと思う。