記者席から拍手が起こるという珍事
すると、左ブロックの前から2列目に座っていた男性記者とその周辺から拍手が起きた。筆者はちょうどその前の最前列に座っていたが、その瞬間、心の底からビックリした。不祥事、ましてや人権侵害をした企業の会見で、企業側の制止に対して、記者から拍手が送られることなど、通常ありえない。
井ノ原氏のコメント内容にも驚いた。「自分の子ども」「ジャニーズJr.」という未成年、さらに被害者を盾に取り、抗議の声を封じようとするそのやり口に。「もめているところを僕は見せたくない」というお気持ち表明も、非常に偽善的で卑怯である。
例えば、もし講師による女子小学生への性加害が相次いで発覚している四谷大塚が会見を開き、加害者本人に代わって謝罪した社長や副社長が同じことを言ったらどうだろうか? 「私にも家庭に小さい子どもがいます。塾で指導している生徒たちもいます。その子たちに、もめている私たちの様子を見せたくない」と……。
そして「一人一社一問」というルールも、会見の申し込み時から参加条件のように明記されてはいたが、ジャニーズ事務所が勝手に決めたルールでしかない。百歩譲って「一社一人」というのはフェアにするためとも考えられるが、「一問」に限られると、投げた問いに対する答えが「答えになっていない」場合でも、再び質問することができない。
井ノ原氏は「一人一社一問」というルールと子どもを盾にした
井ノ原氏はそんな自分たちに有利なルールの下、何度も論点ずらしを行った。例えば「(今回欠席した)ジュリー藤島前社長は、被害者救済委員会に478人(※)もの申し出があったということをなんと言っていたか」というプレジデントオンラインの質問には「ジュリーに関しましては、(自分に)会いたくない人(被害者)もいるかもしれない。ただ会いたいというのであれば、きっちり対話をしていきますと。そう言っておりました」という答えをした。ひとつの性加害事件として国内外に衝撃を与えたその数字の大きさではなく、彼らに対面するかどうかという話にすり替えたのだ。
※補償を求めているのはこのうち325人
論点ずらしの最たる場面は、「(これまでのようなマネージメントを行わず)エージェント契約とする」とした新会社で、井ノ原氏が副社長を務め、現在のジャニーズJr.のような小中学生を含むアイドル候補を育成するという発表について質問されたときだ。白坂和哉氏(フリージャーナリストで政治系YouTuber)の「前社長が多くの少年へ性加害をした事務所の後継組織が、従来どおり未成年の少年を預かって育成するならば、井ノ原さんはジャニー氏の性加害を容認しているように見える」という趣旨の質問に、井ノ原氏は「え? そうですか」「マジですか?」とくだけた口調で反応した。