なぜ出資することを決めたのか

意地悪な質問だが、それは光免疫療法にビジネスとしての可能性を感じたということだったのだろうか。

「うーん、ビジネスというか、エンジェル投資家といったところですかね。多少カッコをつけさせてもらえば、フィランソロフィーというやつでしょうか」

フィランソロフィー(philanthropy)とは、従来であれば「慈善活動」や「社会奉仕事業」、あるいは「チャリティー活動」などと訳されていたが、近年ではビル&メリンダ・ゲイツ財団に代表されるように、起業家などが社会貢献のために個人資産を投じて行う支援活動を指すことが多い。何のために資産を増やすのか、なぜ事業でお金を儲けるのか、そのことに思いを致すからだろうか。

電気自動車メーカー、テスラ社のCEOイーロン・マスクは個人資産が20兆円とも言われ、世界一、二を争う資産家だ。彼は民間宇宙開発企業スペースX社の共同設立者でもあるが、同社は「人類を多惑星種にする」ことを使命に掲げ、人類の火星移住計画をぶち上げている。マスクはこうも語る。

「この宇宙は何なのかを探る。他の生命がいるのか、とかね。私たちはどうやってここに来たのか。生きる意味とは何だろう。銀河系を探索すれば、これらの疑問を見つけられるのではないか。とてもエキサイティングだよね」(朝日新聞「GLOBE+」より)

日本屈指の実業家が働き続けるワケ

三木谷はこう言う。

「僕は、イーロンに対抗するわけじゃないですが、人類を火星に送るより、がんを治すことを目標に据えました。父親ががんになったことをきっかけに、少しでもこのプロジェクトを押し進めていくことができたらいいなと思ったんです」

三木谷ははっきりとした意志を感じさせる口調で言葉を継いだ。

「僕は今、お前はなぜ働くのかと聞かれたら、もう僕個人のこととかは割とどうでもよくて、人類社会の発展のためだと考えています。社会にどれだけ貢献できるかというのが大きな理由なんですね。人類が抱えている問題を解決する方向に僕の資産が使えたらいいなと。そういうことのために必死に働いているんだなと思うんですよね。

だからビジネスとしての儲けうんぬんより、自分の家族ががんになったことで、がん患者さんやその家族のお手伝いをしたいと思うようになったんです。これはまあ、父のおかげというか、運命だったのかなと思っています」

そしてほんの少し目を伏せてこう言った。

「それに、親父もきっと、がんばれって言ってくれる気がするんです」

三木谷の父・良一はこの3度目の会合から7カ月後の2013年11月、83歳で他界している。