小林と三木谷をつないだ不思議な縁

小林のいとこ新保哲也が声をかけてきたのはそんな頃だった。

「これは本当に縁だと思うんですよねえ」と三木谷は振り返る。新保のワッフル・ケーキの店「R.L」は楽天市場の創業期から出店していたのだ。

二子玉川ライズ内、楽天グループ本社ビル「楽天クリムゾンハウス」
二子玉川ライズ内、楽天グループ本社ビル「楽天クリムゾンハウス」(写真=掬茶/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

「楽天市場ができた時からの同志のような存在で、いやあ、三木谷さん、お父様のお話を聞きましたと言うわけですよ。新保さんにはヴィッセル神戸のオフィシャルスポンサーもしてもらっていて、サッカーが好きだった私の父とも交流があったんです。その彼が、実は私のいとこがアメリカでがんの研究をしているので、一度会ってみませんかと言うんですね。聞けば、光でがんを治す治療法だと」

光でがんを治すと聞いても「あまり信じていなかった」と言うが、小林が帰国するタイミングで小一時間ほど時間が取れそうだった。東京・虎ノ門のホテルオークラのステーキ店で小林と会うことにした。

それが2013年4月のことだった。

「おもしろくねえほど簡単だな」

ステーキ店でひと通り光免疫療法の話を聞いた三木谷は「なるほど」と呟いたまま、しばらく動かなかった。

「正直に言えば、おもしろくねえほど簡単だなと思ったんですよ。動物実験の画像やいろんなデータを見せてもらったんですが、メカニズムは非常にシンプルで、自分としては、何て言うのかな、なるほど、これは人間でもワークしないはずがない、効かないはずがないと思いました。否定のしようがないと思ったんです。

小林先生とはじめてお会いした時は時間もあまりなかったので、いくつか質問をしただけでしたけど、それから3日後だったかな、もう一度話を聞く場をセッティングしてもらいました」

シンガポールに渡っていた小林に三木谷から連絡があった。

「小林先生がアメリカに帰る前にもう一度東京で会えますか」と。

小林は「何の用件だろう」と思ったという。小林が羽田空港に着く時間に合わせて当時品川シーサイドにあった楽天本社社長室での会合がセッティングされた。今度は三木谷の医師団が同席していた。

医師のひとりとして同席していた岡田直美はこの日のことをよく覚えていると言う。岡田は放射線医学総合研究所や量子科学技術研究開発機構で医長として活躍し、現在は独立して都内でがん専門のクリニックを開業している医師だ。