視力を保つにはどうすればいいのか。眼科医の平松類さんは「眼球はもろくて傷つきやすい。目を洗ったり、こすったりする何げない行為が視力低下の原因になっている」という――。

※本稿は、平松類『眼科医が警告する視力を失わないために今すぐやめるべき39のこと』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

アイウォッシャのプール
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目を洗う習慣は、今すぐやめたほうがいい

かつて涙は「ただの水」だと思われていました。しかし現在では、脂質やタンパク質など複数の微量栄養素で構成されていることがわかっています。その複合的な成分が常に眼球を薄く覆い、守っているのです。

「目を習慣的に洗う」というのは、要するに、眼球を保護している涙を習慣的に洗い流してしまうということです。これだけで「何となくよくなさそうだ」と想像していただけるのではないでしょうか。

かつて目を洗うことが推奨されていた時代もありました。

例えば、プールに入った後です。プールの後に、二股の蛇口が上向きになっている水道で目を洗った記憶がある人もいらっしゃるでしょう。

当時はゴーグルを着用する習慣がなく、プールで目の感染症にかかることがありました。しかも、抗生剤入りの点眼薬が開発されるのはずっと後のことですから、当時は「感染症にかからないようにすること」が最善策でした。それが「プール後に目を洗う習慣」につながったのです。

目を守る大切な「涙」を洗い流すことになる

ひと昔前まで、医学は感染症とケガとの闘いでした。眼科も例外ではなく、感染症は失明の大きな原因となっていました。おそらく60代以上の方なら、「トラホーム(トラコーマ)」と聞けば「恐ろしい目の病気」と思うはずです。

こうした状況のもとでは、感染症を防ぐために習慣的に目を洗うことにも一理あったわけです。現に昔の眼科医の主な処置は目を洗うことだったため、「目洗い医」とも呼ばれていたほどです。

しかしご存じのとおり、今ではプールでゴーグルを着用することが当たり前になっているなど、公衆衛生が発達しています。しかも万が一、何らかの理由で目の感染症になっても、たいていは抗生剤入りの点眼薬により数日で治癒します。

加えて、先ほども述べたように「涙はただの水ではなく、さまざまな物質で構成されている複雑な液体であること」も判明し、さらには、感染症よりも目の疲れやドライアイといった慢性症状のほうがはるかに深刻になっています。

そうなると、より重要なのは、眼球を保護し、目の健康に寄与する涙を量・質ともに良好に保つことになります。

感染症による失明のリスクが限りなく低下している今となっては、むしろ目を洗うことは、大事な涙を流してしまう「目によくない習慣」なのです。