若者のあいだで、「あざとかわいい」という言葉が聞かれなくなり、そのかわり「不憫かわいい」がトレンドになっている。芝浦工業大学の原田曜平教授は「Z世代は周囲に敵を作らず、自分の心が傷つかないことを重視している。だから周囲に敵を作りやすい『あざとさ』は敬遠されるようになっている」という――。
スマートフォンを見ながら話す女性
写真=iStock.com/maruco
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Z世代からじわり広がる「おぱんちゅうさぎ」人気

パンツをはいたウサギのキャラクター「おぱんちゅうさぎ」が今、若者に大人気です。

イラストレーター「可哀想に!」氏が手がけ、2022年1月にX(旧Twitter)とインスタグラム上でアカウントが開設されると、漫画やアニメーションが瞬く間にZ世代の間で広まりました。20日現在、Xは77.5万人、インスタは38.3万人がフォローしています。

公式ホームページによると、おぱんちゅうさぎのコンセプトは、「いつもみんなを助けたくって、励ましたくって、日々奔走しているよ。頑張り屋さんだけど、どうにも報われない。毎日泣いちゃいそうだけど、健気に生きているゾ!」。

漫画では、チョコが食べたいという人間の独り言を聞いて遠い異国の地までカカオの木を探しに行ったり、落とした小銭を周りの人が協力して拾ってくれるかと思いきやお金を盗まれてしまったりと、過度に頑張ってしまうシーンや可哀そうな目に遭うシーンが、ひたすら描かれています。

デビューから1年以上経ちますが、いまだ人気は衰えていません。おぱんちゅうさぎを模したケーキを食べる動画をアップすることがSNS上で流行ったり、大手製薬会社の便秘薬のテレビCMに起用されたり、コンビニや百貨店とのコラボ企画が生まれたり、おぱんちゅうさぎの人気は世代の枠を超えて広がっています。

なぜこのキャラクターが、これほどまでに人気を集めるのでしょうか。これを理解するうえで欠かせないのが「不憫かわいい」という言葉だと僕は考えています。

「がんばっても報われない」姿がかわいい

初めておぱんちゅうさぎの存在を知った時、僕はその良さがいまいち理解できませんでした。しかし、学生たちに話を聞いてみると、おぱんちゅうさぎの人気を支えているのは、ある新しい概念だということが見えてきました。

それが、「不憫かわいい」です。頑張るのに報われない様子が不憫だけれども、その健気で哀愁漂う姿が愛おしいという感情を指します。

みなさんは、赤ちゃんや子犬など可愛いものを目にした時、相手を思わずつねってしまったり、「食べちゃいたい」と感じたり、自分の手を握りしめたりという攻撃的な行動をとってしまうことはありませんか。これは昔から人間に広く認められる行動で、心理学では「キュートアグレッション」と呼ぶそうです。

若者たちがおぱんちゅうさぎを「不憫かわいい」と愛でるのは、かわいいものを傷つけたいというキュートアグレッション的願望を、作中で常に傷つけられているおぱんちゅうさぎが満たしてくれるからかもしれません。