自分をよりかわいらしく見せることは他者を貶めることとイコールになり得ます。そのため「ぶりっ子」も「あざとかわいい」も周囲に敵を作りやすいのです。他者からの意見に敏感で、傷つくことを過度に恐れるZ世代に「あざとかわいい」が定着しなかったのは、これも理由のひとつだと考えられます。

だからこそ今、「あざとかわいい」から「不憫かわいい」へと、トレンド転換が起こっている――これが僕の見立てです。

「不憫かわいい」がZ世代の作法になりつつある

Z世代は、「不憫かわいい」をただコンテンツとして消費しているのではありません。すでに若者たちは、これをコミュニケーションツールとして取り込み始めています。ある学生はこう話してくれました。

「僕は飲みの誘いを断られた時、一人で居酒屋に行って、一人で飲んでいる状況の写真をSNSにあげ、不憫かわいいブランディングをします。『こいつ断られて一人で飲んでるな』とかわいそうに思われたり、構ってほしいことが見え見えな“病みストーリー”だと捉えられたりするのは嫌ですが、不憫かわいいブランディングをすれば、SNSにあげても傷つかないでいられます」
「また、クリスマスに“クリぼっち”になったとしても、見る側の多くの人が不憫かわいいという認識を持っていれば、それに刺さるような投稿(あえて一人でクリスマスと逆張りの行動をしている)を出すことで、傷つかずに共感などを得られるので、そうしようかと考えています」

本稿で紹介したTikTokのトレンドを見ても、「不憫かわいい」というセルフプロデュースが共感を生み出すことを、すでに多くの若者が(たとえ無意識だとしても)理解し出していることは明らかです。

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写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

周囲に敵を作らず、自分の心を傷つけない技術

ひたすら健気さを押し出すことによって、嫌われたり嫉妬されたりすることを回避しながら、自分が傷つくことなく、共感を得ることができる――若者たちの間には、不憫さを演出することで、コミュニケーションを円滑にしようとする傾向が見て取れます。

Z世代の「不憫かわいい」志向は、単なるトレンド転換ではなく、これからのコミュニケーション方法の地殻変動になる可能性があります。すでにZ世代ではこうした動きがはじまっています。僕のようなおじさんたちにも「不憫かわいい」が求められるようになる日は、そう遠くないかもしれません。

(構成=奥地維也)
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