静岡県浜松市に、世界一のマーマレードを作るシステムエンジニアがいる。えなみ農園の江南徳行さんは、マーマレードの世界大会で7年連続金賞を受賞。うち2回は世界一の「ダブルゴールド」を獲得した。しかし江南さんは、マーマレード作りだけでなく、エンジニアの仕事も続けている。なぜどちらかに絞らないのか。フリーライターの宮﨑まきこさんが取材した――。

エンジニアと農家の「2枚の名刺」

「えなみ農園」

太陽を浴びて目に染みるほど青々と成長した草木の間から、50センチ四方程度の看板が慎ましく来訪者にその場所を伝えている。

静岡県浜松市にある「えなみ農園」で、みかん農家を営む江南徳行(えなみ・のりゆき)さん。彼が自らの畑で採れたオレンジで作ったマーマレードは、イギリスで開かれるマーマレード世界大会で7年連続金賞を受賞し続け、そのうち2020年、22年の2回は世界一である「ダブルゴールド」を獲得した。

マーマレード世界大会で2度最高金賞を獲得した江南徳行さん
筆者撮影
マーマレード世界大会で2度最高金賞を獲得した江南徳行さん。

笑顔で迎えてくれた江南さんの日焼けした手で渡された名刺は2枚。

「えなみ農園」の江南徳行と、「株式会社クリート(ヤマハ発動機ゲストエンジニア)」の江南徳行。

かつてスズキのエンジニアとして47件の特許を取得した彼は、その後みかん農家に転身。現在はヤマハのゲストエンジニアとして働きながら、マーマレードメーカーとしても世界金賞を獲得し続けている。

決して順調ではなかった道のりのなか、苦難を乗り越えてきた彼が出した答えが、この2枚の名刺だった。

えなみ農園の場所を知らせるささやかな看板
写真提供=えなみ農園
えなみ農園の場所を知らせるささやかな看板。