「サラリーマンは結局、常になんとかなる環境だから、諦められないんですよ。でも自然を相手にしていたらもう、諦めるしかない。自分が健康であること、ケガをしないことが一番で、あとはなんとかなるって。カルチャーショックでしたね」
自然と向き合ってタフに生き、ときには潔く割り切って、前に進む。農家の先輩たちの生き様が、江南さんを少しずつ変えていった。
みかん1箱1600円、おまけに自家製ジャムをつけたら…
とにかく、みかんが採れるのが楽しい。江南さんはみかん作りに夢中になった。
「もうね、自分が作ったみかんだっていうのが嬉しくて、収穫したみかんを全部自宅まで持ってきて、一つひとつ綺麗に拭いたりしていました」
しかし、採れただけで喜んでばかりはいられない。兼業農家だからといって、みかんは売らなければ一銭にもならないのだ。形が整ったみかんは農協が買い取ってくれたが、素人がそんなに簡単にきれいなみかんを作れるはずもなく、引き受けてもらえない不細工なみかんが大量に手元に残った。
そこで、残ったみかんを地元のファーマーズマーケットとメルカリで売ることにした。しかし、みかん農家は江南さんだけではない。ほかと差別化を図るためには、なにか戦略が必要だった。
「そこで、みかん1箱にジャムを1瓶つけて販売し始めたんです。みかん1箱、ジャム1瓶、送料込みで1600円。激安でしょ?」
江南さんの目測どおり、おまけ付きのみかん箱は飛ぶように売れた。しかし、彼にとって想定外だったことがひとつあった。
「みかんよりも、ジャムの方が評判になっちゃったんですよ。嬉しいやら悔しいやら……」
「こんなにおいしいなら、世界大会に出してみたら?」
もともと料理が得意だった江南さん。丁寧に下処理され、分量もしっかりと計算されたジャムは、思った以上の反響を呼んだ。それならばと、江南さんの闘争心に火がついた。
「うちは柑橘農家なので、ジャムだけじゃなくてマーマレードもやろうと思ったんです。もともと凝ったら集中するタイプなので、いろんな柑橘類を取り寄せてはマーマレードを作って、ファーマーズマーケットのお客さんに食べてもらっていました。そこのお客様は舌が肥えているので結構シビアなんですが、それでもおいしいって評判になったんです」