※本稿は、中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
がん治療に“他人のうんち”が活かされている
いきなりですが、うんちを移植する治療法があると聞いたら驚くでしょうか?
私たちの腸の中には「腸内細菌」と呼ばれる約1000種類の菌がいて、その数は約100兆個から1000兆個といわれています。重さにすると約1.5kgにもなり、私たちのうんちの半分はこの細菌たちとその死骸です。
これだけ多くの菌が体内にいるので、腸内細菌は私たちの身体に大きな影響を及ぼします。ひとつの臓器のように働いていると考える人もいます。
私たち人間は母親の胎内では無菌で、生まれるときに細菌を浴びます。生まれて数日の間に大腸菌やビフィズス菌などが腸の中で増殖しますが、これらは外敵からの攻撃に立ち向かう「免疫」を獲得する過程で、大きな役割を果たします。
そして腸内細菌は母親から授かる独自のもので、性格と似ています。もっというと、生まれてくる瞬間に受け取る腸内細菌によって、その後の免疫力や体質が決まってくるともいえます(※1)。
腸内細菌によって運命が決まってしまうのであれば、腸内細菌を変えればいいと思いますが、個人特有のものなので、食事によって変えることがなかなかできません。そこで、他人の腸内細菌を移植する方法、つまり他人のうんちを腸内に入れる方法が試されるようになったのです(※2)。
※1 Shaw SY, et al. Association between the use of antibiotics in the first year of life and pediatric inflammatory bowel disease. Am J Gastroenterol. 2010; 105: 2687-2692.
※2 Ley RE, et al. Microbial ecology: human gut microbes associated with obesity. Nature, 2006; 444(7122): 1022-1023.