知らないうちに加担していることも
一般的に、同調圧力のメリットは会社側だけでなく、従業員側にもあります。同調圧力は、窮屈で自分の自由を奪われるような息苦しさを生む一方で、「従ってさえいれば、その集団から排除されない」という安心感を与えてくれるからです。あまり考える必要がなく、周りに合わせてさえいればいいので楽ですし、「省エネ」だともいえます。ですから実際は、同調圧力の存在に気付いていない人も多いですし、気付いていても、嫌がっていない人も多いように感じます。
同調圧力が、「ビジネスマナーを守る」といったところで働く分にはいいのですが、「長時間労働は当たり前」「小さなミスでもしつこく大声で叱責する」「仕事の能力は関係なく、年齢や性別、そのほかの特性によって評価が変わる」などの空気を助長するような、悪い方向で働くようになると、話は別です。
こうした行動に加担しなくても、「周りがそうだから」「従っておく方が楽だから」と、声を上げず空気に同調してしまえば、それは同調圧力を一層強めることになります。ブラック企業は、社長などの誰か1人がつくるわけではありません。同調圧力にのまれることで、結果的に社員も、ブラック企業を“ブラック化”することに加担してしまうのです。
ブラック企業は、仕事量が多いことが多いので「毎日の仕事だけでも忙しいのだから、せめて人間関係は摩擦がないようにしたい」という思いが強くなってしまいます。また、同調圧力に従っていれば、集団から孤立しないので、安心感につながります。しかし、それが大きくなりすぎると組織への依存心になり、やがて、排除されることに対する恐怖心が大きくなり、会社で行われている良くない行為が、誰からも指摘されないままになってしまいます。
なぜ発覚しなかったのか
ビッグモーターについては、メディアで報じられている内容以上のことはわかりませんが、あれだけの店舗数と従業員がいる会社なのに、よくこれまで発覚しなかったものだと、正直驚きます。それはやはり、同調圧力の強さが関係していたのではないかと思います。
たとえ論理的におかしい、道徳的に問題があっても、反発せず上司の指示に従っておけば、社内の価値観に沿った“正しい”行動になり、評価されることになる。さらに、そうした行動を見ている周りの人にも、「口出ししてはいけない」という圧が働きます。そのうち、このようなネガティブな同調圧力があることすら気付かなくなり、行動や考えを正当化し、社会的にズレていることさえわからなくなってしまいわけです。