数年間、滑り棒を登らなければならない

あなたが月面で、この棒の隣に立ったなら、1つ問題があることがすぐにわかる。あなたは、棒を滑って登っていかなければならないのだ。とても滑り棒と呼べるような使い方ではない。

滑るのではなく、あなたは登らなければならない。

人間は、結構速く棒を登ることができるものだ。棒登りの世界記録保持者たち(*)は、選手権大会(**)で毎秒1メートル以上のペースで登っている。月面では重力ははるかに小さいので、おそらく地球上でよりも登りやすいだろう。一方、宇宙服を着る必要があるので、そのためにペースは少し落ちる。

* もちろん、棒登りには世界記録がある。
** もちろん、選手権大会がある。

十分な距離を登ったなら、地球の重力が優勢になり、あなたを引っ張って下ろしてくれるだろう。棒にしがみついているとき、あなたには3つの力が働いている。地球に向かってあなたを引っ張る地球の重力、あなたを地球から遠ざける向きに引っ張る月の重力、そして、月と共に回っている棒の遠心力(***)――あなたを地球から引き離す方向に働く――だ。

*** 月の軌道の距離で、月と同じスピードで運動していたなら、それにかかる外向きの遠心力は、地球の重力ときっちり釣り合っている──だからこそ月はそこを軌道として周回しているのだ。

初めは、月の重力と遠心力の和のほうが大きいので、あなたは月のほうに引かれるが、地球に近づくにつれ、地球の重力が優勢になる。地球のほうが月よりも重いので、まだ月に結構近いうちに、あなたはそのような点――L1ラグランジュ点と呼ばれるもの――に到達するだろう。

地球と月の均衡点に近づけば、加速できる

あなたにとっては困ったことに、宇宙は広大なので、「結構近い」と言ってもまだまだ遠い。たとえあなたが世界記録を超えるスピードで登ったとしても、月と地球の重力の均衡点であるL1に到達するには数年かかるだろう。