L1に近づくうちに、あなたは登る態勢から蹴伸びの態勢に切り替えることができるだろう。一度蹴ったら、長い距離を一気に滑って、棒を登ることができるようになる。それに、止まるまで待つ必要もない――棒にもう一度しがみつき、自分の体に勢いをつけて、進むペースを上げることができる。スピードスケートの選手が、数回繰返し蹴ってスピードを上げるのと同じだ。
やがて、L1の間近に迫り、もはや重力と闘う必要がなくなると、スピードを制約するものは、あなたが棒をどれだけ速く掴んで、自分の後ろへと「投げる」ことができるかだけになるだろう。野球の最速ピッチャーは、自分の手を時速約100マイル(時速約160km)で動かしながら物体を手から投げることができる。おそらくそれがあなたが期待できる棒を進む速さのおおよその上限だろう。
注意:自分の体を棒に沿って投げ出すときは、棒に手が届かないところまで離れないように注意する必要がある。万一そのようなことが起こったときのために、命綱のようなものを持っておき、棒の傍に戻れるようにするのが望ましい。
地球の重力が利いてくると…
その後さらに2、3週間棒に沿って滑って進むと、重力が利いてきて、自分で棒を押して体を進めていたときよりも、ずっと速く進んでいると感じるだろう。こうなったら、気を付けないといけない――すぐに、速くなりすぎないかが心配になってくるからだ。
地球に接近し、その重力で次第に強く引かれるようになると、あなたはかなり加速し始める。自分で自分を止めないと、ほぼ脱出速度――秒速11キロメートル――で大気圏の最上部に達することになり、大気と衝突する衝撃で大量の熱が発生し、燃え上がってしまう恐れがある。
宇宙船では、ヒートシールドを使ってこの問題に対処している。ヒートシールドが熱を吸収して拡散してくれるので、その下で守られている宇宙船は燃えずに済む。だがあなたには、この金属棒が手元にあるのだから、棒にしっかりしがみついて、摩擦を利用して降りるペースをコントロールすればいい。