宇宙の果てまでドライブすると何年かかるのか、自分のご先祖様は何人いるのか。NASA出身のコミック作家・ランドール・マンローさんは自身のブログで、読者のさまざまな疑問に科学で答えている。著書『もっとホワット・イフ?』(早川書房)から、ユニークな回答をお届けする――。

※本稿は、ランドール・マンロー(著)、吉田三知世(訳)『もっとホワット・イフ? 地球の1日が1秒になったらどうなるか』(早川書房)の一部を再編集したものです。

時速105キロのクルマで「宇宙の果て」を目指す

今この瞬間、宇宙の膨張が止まったとすると、人間が自動車を運転して宇宙の果てまで行くのにどれくらいの時間がかかりますか?――サム・H-H

宇宙の果てまでは、約440,000,000,000,000,000,000,000キロメートル(4.4×1023)kmだ(約460億光年)。

時速105キロメートルの一定の速さで進むとすれば、そこまでたどり着くには、480,000,000,000,000,000――つまり4.8×1017――年かかる。別の言い方をすると、今の宇宙の年齢の3500万倍の長さだ。

この長距離ドライブは、危険なものになるだろう。宇宙の何やかやのせいではなく――そういうものは、あまり気にしなくてもいい――運転そのものが相当危険なのだ。

アメリカでは、平均的な中年のドライバーは、1億マイル(約1天文単位)ごとに約1度、命に関わる衝突事故に遭う。太陽系から出てどんどん遠くへ行く高速道路を誰かが作ったとすると、ほとんどのドライバーは小惑星帯を抜け出すことができないだろう(小惑星帯は、太陽から2~4天文単位の距離にあるため)。

高速道路で長距離を走るのに慣れているトラック・ドライバーは、一般のドライバーよりも衝突事故遭遇率は低いが、それでも木星(太陽からの距離は約5天文単位)に到達する可能性はあまりないだろう。

月サイズのガソリン、北極海サイズのオイルが必要になる

アメリカの衝突事故率からすると、1人のドライバーが観測可能な宇宙の果てまでの460億光年を一度も事故を起こさずに走り切る可能性は約101015に1つである。これは、1匹のサルが米国議会図書館の蔵書をすべて、ミスなしにタイプで打つという作業を連続50回やり遂げるのとほぼ同じ確率である。自動運転車か、少なくとも車線からはみ出しそうになったら警告してくれるアラームの付いた車を使ったほうがいいだろう。

宇宙の果てまでの旅には大量の燃料が必要だ。1ガロンあたり33マイル(1リットルあたり約14キロメートル)の燃費の場合、宇宙の果てまで行くには月と同じ大きさの球を満たすガソリンが必要になる(*)。さらに、3000京(30兆の100万倍)回のオイル交換を行うことになるので、北極海と同じ容積のエンジンオイルを入れる容器も必要だ(**)

* 2021年時点で、NASAのニュー・ホライズンズ探査機は約8億5000万ドルの資金で約50億マイル進んだ。これはつまり、1マイルあたり17セントである――普通の長距離ドライブでガソリンとスナックにかかる費用と同じぐらいだ。
** 昔から、5000キロメートル走るたびにオイル交換が必要だと言われているが、車の専門家のほとんどが、これは俗説だということで意見が一致している――最近のガソリンエンジンは、1度オイル交換すれば、この2、3倍の距離を悠々走ることができる。