厳しさ95、優しさ5

斎藤顯一さんが大前さんと一緒にマレーシアで仕事をしていた頃の写真。右から大前さん、マハティール首相、齋藤さん、波頭亮さん(当時マッキンゼー、現在エクシード代表)。[写真提供=斎藤顯一氏]

マッキンゼー時代の大前さんを間近で見ていて感じたのは、厳しさとある種の優しさ、両方を持っているということです。

これが相手によって全然違う。私の場合は厳しさ80、優しさ20ぐらい。普通の人には厳しさ95、優しさ5ぐらいだったと思う。もうバランス悪すぎ(笑)。

私は結構優しくしてもらったほうだと思います。「家族連れで一緒にパラオに行こう」とか結構、誘ってくれて一緒に遊びに行きました。仕事でマレーシアに行った帰りに「ちょっと潜っていこう」とかね。スキューバを始めたのは私の方が早かったんです。というとまた怒られますけど。

ボートでダイビングスポットに向かう時など、「ケンちゃん、これってどう思う?」という感じでいろいろ聞かれました。私が意見を言うと、「なるほどなあ、俺はこう思うんだ」と自分の考え方を滔々と述べる。そういう会話をする相手って、そんなにたくさんいないと思います。まあ、他にいたのかもしれませんけど、「誰かと二人でどっか行ったん?」なんて、わざわざ聞きませんからね(笑)

大前さんと私の関係でいえば、やっぱり私が頑張っちゃうんですね。

「こいつはホントにあかんかもわかれへん」と思っていたら妙に頑張りよる。それが大前さんは好きなんだ思います。できる奴が頑張るのは当たり前。できない奴が頑張るから愛おしい、みたいなね(笑)。

それでも絶対に甘やかさない。調子に乗らせないようなところがあって、怒るときはボロクソに怒る。

たとえば持っていった資料を見て気に入らなければ、束ねたクリップを外してブワーッと資料をぶん撒いて、「やり直しや!」

こっちは内心「クリップ付けたまま撒いてくださいよ。集めるだけで時間がかかるやん」ですよ。どこが悪いかを言ってくれたら時間が短縮できるのに、それも言わない。

「そんなもん自分で考えろ。それであかんったら、辞めぇや」という感じ。

それで自分で考えて手直しして、恐る恐る持っていったら、「最初からこれ持ってこなあかんやん」みたいに言う。

大前さんは自分が怒った後には「俺は全然根に持たない」なんて言いますけど、怒られた方は皆、絶対に根に持ちますよ(笑)。怒ったらキッツイですから。

怒るレベルが最低の1から最悪の10まであるとして、大前さんの機嫌が悪いときには、本来3程度のことでも8ぐらいの勢いで怒る。だから報告に行くときは、いつも秘書に大前さんの機嫌を伺っていました。
「ご機嫌はどう?」「今日はマシみたい」「ホンマ? ほんなら行こう」って。