「『トラック野郎爆走一番星』を観てこい」

大前さんと斎藤さんの"師弟コンビ"には共著『実戦!問題解決法』(小学館文庫)がある。奥は斎藤さんの新刊『新版 問題解決の実学』(ダイヤモンド社)。

リサーチャーとしてマッキンゼーに入ったものの、経営のことも経済のこともまったく勉強していないわけですから、最初は苦労しました。

外国人のコンサルタントから「この会社のBreakeven analysis(損益分岐点分析)を提出してくれ」と頼まれて、「Yes sir!」と調子よく返事をしたのはいいけれど、言っている意味がわからない(笑)。

まず英和辞典で「Breakeven」の意味を調べて、「損益分岐」の意味が分からないから次に用語辞典で調べる。そこに書かれている「固定費」とか「変動費」という言葉もわからないから、またまた辞書を引いて……。何とか計算方法までたどり着いて、調べた数字を当てはめて答えを出すまでに、何行程もかかるわけです。とはいっても時間をかけると嫌われるのはわかっているから、その日のうちに終わらせるために夜中まで仕事、というのが毎日のパターンでした。

大前さんからは「わからないことがあったら聞きにこい」とか「お前のことは俺が面倒見てやるから」と声をかけてもらっていましたが、あまり面倒を見てもらった覚えはありません(笑)。ただ最初のプロジェクトは大前さんとの仕事で、これはよく覚えています。

最初に大前さんから「お前、映画観てこい」と言われたんです。

「え? 映画? いいんですか」

「いいから観てこい」

「何を観たらいいんですか」

「『トラック野郎爆走一番星』だ」

あるトラックメーカーの業績向上を目的としたプロジェクトでした。しかし、売り物であるトラックの乗り手の気持ちが、クライアントに聞いても誰に聞いてもよくわからない。それで人気映画の「トラック野郎」からヒントを得てこいという話になったのです。

トラックの運転手は普段どういう生活をしているのか。どんな場所で休憩を取り、食事はどうしているのか。運転中はどんなことを考えて、何を重視しているのか。仲間や家族との関係で大事にしていることは何か——。といったこと映画を見ながらメモして、レポートにまとめて提出しました。

大前さんはそれがたいそう気に入った様子で、上機嫌で次の指示を出しました。
「クライアントに頼んでおくから、お前、今度、トラックに乗ってこい」