共通する「世の中をよくしたい」という思い

最近はちょっと優しくなったみたいですけど、私にとって大前さんは怖いお師匠です。別会社になった今でも、子弟の関係は寸分も変わらない。師匠に我儘されたら、「もう、しゃあない」。言うこと聞くしかありません(笑)。

大前さんが学長を務めるビジネス・ブレークスルー(BBT)大学院の講師を拝命したのも電話一本でした。

「お前、教授の申請出しといたからな」

「は? 何ですかそれ」

「大学院だよ」

「大学院って?」

「いや、今度、大学院を作るんだけど、文科省の許可を得るのに必要な書類を送るから、それでいいかどうか確認してくれ」

送られてきた書類を見たら、講師陣の中に私の名前がもう書いてあるんですから、YesもNoもない。

それでも、今の私があるのは直接的にも、間接的にも大前さんのおかげだと思っています。

私がコンサルタントという仕事にこだわって今も続けているのはなぜか。コンサルタントの仕事というのは効率が悪くて、企業セミナーの講師でもしていたほうがよっぽど儲かります。でも自分が最先端の現場にいなければ、誰かに生きたコンサルティングや問題解決を教えることはできません。私がBBTで教えている限り、実践を離れるわけにはいかない。

それからもう一つ、そもそもコンサルティングの目的は企業の業績を上げることです。そして企業の業績を上げるためには、クライアントの先にいる「お客さん」を喜ばせなければならない。私は授業では、「お客さんを喜ばせない限り、企業は成り立たない」と教えているし、そのための方法論、そのために必要な思想や人間力も伝えるようにしています。

つまり、コンサルティングで会社をよくするということは、その会社が世の中にいいモノを提供したり、社会に貢献できる人材を生み出すようにすることであり、それは結局、世の中をよくすることに通じるわけです。

世の中をよくしたい、世の中のためになりたいという気持ちが根本にあるから、私はコンサルタントという仕事にこだわっていられる。

大前さんがコンサルタントの枠を飛び出して、政治に挑んだり、政策提言をしたり、あるいは若い世代の教育に力を注いでいるのも根っこは同じで、「世の中をよくしたい」という思いがあるからだと思うんです。

次回は大前研一氏が語る「私が出合った名経営者たち」。10月15日更新予定。

(フォアサイト・アンド・カンパニー代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学・大学院教授 斎藤顯一=談/小川 剛=インタビュー・構成)