なぜ人気ラーメン店「AFURI」は批判されているのか
人気のラーメンチェーン店「AFURI」がSNSを中心に、大きな批判を浴びている。神奈川県伊勢原市の酒造メーカー「吉川醸造」が8月22日に発表した声明文によると、ラーメン店などを展開するAFURI社は吉川醸造の日本酒「雨降(あふり)」がAFURI社の商標を侵害していると主張、商標の使用差止めと損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴したというのだ。
この騒動を受け「もう二度とAFURIのラーメンは食べない」といった書き込みが、SNSに相次いだ。AFURI社は法律に則って、自社ブランドの関連商標を取得し、その権利を行使したに過ぎない。だが、SNSはAFURI社への批判であふれている。つまり、AFURI社は知財戦で優位に立ったが、広報戦で完敗しているのだ。
AFURI社の行為に違法性は一切ない。関連商標を取得する行為も、ビジネスの世界では極めて一般的だ。それにもかかわらず、なぜ、批判の集中砲火を浴びたのか。その背景には、吉川醸造の声明文の巧みさ、そしてAFURI社長の感情に任せ、本質を見失った危機対応がある。
私はテレビ東京の経済部記者として、多くの企業を取材してきた。現在は独立し、企業の広報PRを支援している。長年、企業の広報PRに携わってきた経験をもとに、広報戦の勝敗をわけた原因を紐解いてみたい。
吉川醸造が掲載した巧みな「お知らせ」
改めて、両社の争いの経緯を振り返ってみたい。8月22日に吉川醸造のサイトに「AFURI株式会社からの提訴について」という「お知らせ」が掲載される。この「お知らせ」を機に、AFURI社への批判がSNSで噴出することになった。この「お知らせ」は、じつに巧みなものだった。
まず全体の文章量が多過ぎず、少な過ぎず、ちょうど良い塩梅だ。タイトルを除いた文字数は900字未満。私が在籍していたテレビ業界のニュース原稿に換算すると長めの1本程度で、長さにして2分あまりとなる。「飽きずに最後まで読める」ギリギリの量と言えるだろう。
本文もじつに巧妙だ。AFURI社から受け取った文書について、吉川醸造は以下のように説明している。
巧みさのひとつ目は、「AFURI社の著名性にフリーライドしその商標権を侵害するもの」と書いている点だ。
「AFURI」は確かにラーメン好きには有名なブランドだが、シャネル、アップル、トヨタのように「誰もが知っている」ものではない。「ラーメン好きにしか知られていない程度」で、「著名性にフリーライド」と主張していると言っているのだ。第三者に傲慢さを感じさせるのには、十分な表現ではないか。