粗い仮説をぶつけて、顧客と共創していく

影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房)の中に「コミットメントと一貫性」という原理が出てきます。これは、人は一度決定して立場を表明すると、そのコミットメントした立場と一貫した行動を取るように内面からも外部からも圧力がかかるという原理です。そして、コミットメントが効果的に影響を及ぼす条件の1つに「自分の意志で選ぶ」というものがあります(他の条件は、「行動する」「他人の目にさらす」「努力を要する」)。

人は、他人に教えられるより「自分の意志で選ぶ」ほうが印象に残り心を動かされるのです。

顧客の心を動かすために、自分で考えて「自分の意志で選んでもらう」ことが重要だとすると、最初から完璧な仮説を用意して“講義”をするという方法は適切ではありません。粗い仮説の段階で顧客にぶつけ、ディスカッションしながら一緒にブラッシュアップしていくべきです。

そうして自分一人で仮説を作るのではなく、顧客と共創していくことにより、顧客にも仮説の当事者になってもらえ、自分事として捉えてもらうことができます。

顧客の認識とのズレに早く気付くことができる

「リーンスタートアップ」と呼ばれる、スタートアップ企業でよく取り入れられている製品・サービス開発のマネージメント手法があります。

鈴木眞理『仮説起点の営業論』(KADOKAWA)
鈴木眞理『仮説起点の営業論』(KADOKAWA)

この方法では、最初から完成度の高いプロダクトを作り込むのではなく、仮説をもとにMVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる必要最低限の価値、機能を備えた商品、サービスを作ります。できるだけ短期間、低コストでMVPを作って、イノベーター、アーリーアダプターと呼ばれる新し物好きの顧客にぶつけて反応を見ます。その反応をもとにプロダクトを改善しながら、市場に受け入れられていくものに改善していくという方法です。

リーンスタートアップは、早めにMVPを顧客にぶつけることで反応を見て、市場のニーズをもとに改善し、短い時間でプロダクトの完成度を上げることができます。仮にMVPが市場のニーズから外れていたとしても、早めに気づいて修正ができるので、時間をかけてニーズからズレたプロダクトを作ってしまうということがありません。

粗い仮説をぶつけて、顧客と共創していくという営業手法は、リーンスタートアップの手法と似ています。顧客の認識とズレが発生してしまっても、早めに仮説をぶつけることですぐに気づくことができるのです。

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