売れる営業はどこが違うのか。元キーエンスの鈴木眞理さんは「粗い仮説の段階で顧客にぶつけ、ディスカッションしながら、顧客と一緒にブラッシュアップしていく手法が有効だ。他人に教えられるより自分の意志で選んだほうが、顧客の心を動かすことができる」という――。

※本稿は、鈴木眞理『仮説起点の営業論』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

会議後のビジネスパートナーとの握手
写真=iStock.com/Wasan Tita
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私たちは常日頃から「仮説」を使っている

若手の営業パーソンと話していると、みんな口を揃えて「仮説を立てるのが難しい」と言います。本当にそうでしょうか?

実は意識していないだけで、私たちは日々の生活の中でも仮説を立てながら生きています。

例えば、「今日は飛行機雲が出ていて雨が降りそうだから傘を持って行こう」としているときの「雨が降りそう」というのは仮説ですし、「宿題をやらないとテストの点が下がり親に怒られるから勉強しよう」にも仮説が含まれています。

常日頃から使っている仮説が、仕事の場になるとなぜ急に難しく感じるのでしょうか?

それは、仕事で使う仮説は間違ってはいけないと思い込んでいるからです。

学校のテストには必ず正解があり、正しい答えを解答することが求められます。答えを間違えると悪い成績をつけられ怒られるので、間違えることは悪いことだという価値観が刷り込まれていきます。さらに、社会に出ても多くの日本の企業の評価は減点方式です。失敗することで評価が下がるような環境では、失敗する可能性があることにチャレンジしにくくなってしまいます。

幼少から社会人まで長い間刷り込まれてきた価値観は、なかなか変えられるものではありません。日本においても、減点方式から加点方式に変えるべきだという話はよく出ますが、経営層、マネージメント層に価値観として減点方式が根付いてしまっているので、評価制度を変えても実態としては減点方式のままだという企業もまだまだ多いです。

この価値観をドラスティックに変えるためにも、仮説においてはむしろ「間違えたほうがよい」と考えているぐらいがちょうどよいと思います。

フランスの数学者が提唱した「ラプラスの悪魔」

仮説は間違えたほうがよい

そもそも100%当たる仮説はありえるのでしょうか?

「ラプラスの悪魔」という言葉を知っている人も多いと思います。フランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスが次のように提唱した概念です。

もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。
                         ――『確率の解析的理論』1812年

要約すると「世の中全ての物質の位置と運動量を知ることができ、それを計算する能力があれば未来を予測することができる」という考えです(私は物理学の専門家ではないので、正確な表現ではないかもしれません)。