投資の基本は「長期・積立・分散」だが…

同時に、「できれば大きく投資をしたい」という佐伯さんの要望から、私はETF(上場投資信託)を提案。佐伯さんは、退職金の残金350万円のうち150万円程度を使って、ETFを購入しました。なぜETFの一括購入を勧めたかというと、佐伯さんは現在60歳で投資できる期間もそう長くない。相談に来られた時点で、ちょうど安く買えるタイミングだったため、投資に回したいお金をスピード感をもって貯金から投資へ移行していく手法も佐伯さんには向いていると考えました。

先に述べた通り長期積み立ては大事です。ですが、もう60歳を迎えた人は、短期的に効率よく増やしていく方法も選択肢の一つとして持っておいてもいいと思います。

一気にではなく分割で

ただし、予算を一気に投入するのではなく、30万円、50万円、30万円……と分割で購入することが大切です。もしかしたら、150万円をドーンといれた直後、沈む可能性もあるし、お子さんの学費がもっと必要になるかもしれない。そう考えると、一気に資産を投じるのはリスクが大きいですよね。上がる可能性もあるけれど下がる可能性もあるわけだから、投資は慎重に様子を見ながら、無理のない範囲でするべきです。

「80歳まで元気で生きているか分からない」「もう時間がないから」と焦ってしまうと、金融機関の営業マンに勧められるままに、仕組みが難しすぎて理解できないようなハイリスク商品に手を出しがち。そして惨憺さんたんたる結果に終わるケースはよく聞きます。

この佐伯夫妻は、夫がギャンブラー気質で、妻が慎重派でした。これまで妻は夫の暴走を食い止められなかった。だからこそ、退職金を溶かしてしまわぬよう、今回は妻が夫の手をひいて事務所に来られたのでしょう。夫がトイレに中座した際、奥さんは「今後も夫が衝動的に投資に手を出さないように見守ります」と一言。平均寿命は女性の方が長い現代。夫が資産をすべて墓場にもっていかないように、目を光らせていくのも妻の役割なのだと静かに語りました。

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