2300万円も退職金が出たのに使えるのは350万円のみ
佐伯豊さん(仮名・60歳)は昨年度末に勤務している大手メーカーで定年退職を迎え、今は役員として再雇用されて働いています。契約は更新型で、うまくいけば70歳まで働ける見込み。妻(60歳)はホームヘルパーとしてパートで働いており、一人息子は私立高校の1年生です。
今年の5月、「4月に受け取ったばかりの退職金を、運用するなどして目標の貯金額まで増やせないか」というご相談で、夫婦で来店されました。
佐伯さんの退職金は2300万円でした。うち、車のローンや教育ローンの完済に550万円、リフォーム予算600万円、そのほか長男の国公立の大学費用に充てる予定の300万円を除いた残金が850万円。
この850万円が実質、現在の貯金額になるわけですが、「今後、最大10年間働くとして、この850万円を運用しながら収支の差額を積み立てることで、どうにか老後資金を2000万円まで増やせないか」とのこと。再雇用に伴い収入も手取り月50万円から45万円にダウンするため、家計の見直しを含めて来られたのです。
なお、佐伯さんはすでに2300万円の退職金から今後必要な支出を除いていますが、私はこれに加え、生活防衛費のために少なくとも今の生活の7.5カ月分の390万円程度もよけておいた方がいいと進言しました。すると、自由に使えるお金は350万円になります。佐伯さんの希望通り投資で増やしていくなら、元手資金は最大で460万円です。
「2300万円も退職金が出たのに、使えるお金はたった460万円か……。850万円をドーンと増やそうと思ったのに」
佐伯さんはもくろみが外れ、がっかりした様子。ですが、今後出ていく予定のお金や、生活防衛費などを除くと、意外と手元に残るお金はそう多くないのが現実です。ましてや佐伯さんの場合、ローンの残債が550万円もあるため、残るお金は少ない。さらにいえば、本連載で何度も述べてきたように、大金を元手に一気に増やすのは得策ではありません。投資はあくまでも、長期・積立・分散して行う方がリスクも低いというのがセオリーです。