「退職金を元手に大きくドーンと老後資金を増やしたい」。そんな野望を抱く人は多い。だが、家計再生コンサルタントの横山光昭さんは「思惑通りにいかない理由が2つ。ひとつは、退職金から今後必要な支出を除くと思ったほど手元に残らないこと。もうひとつは、大金を一気に投じると失敗したときの損失が甚大であること」という。では、どうしたらいいのか、横山さんが提案した“折衷案”とは――。
古札で100万円くらいの札束を差し出す男性の手元
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです

2300万円も退職金が出たのに使えるのは350万円のみ

佐伯豊さん(仮名・60歳)は昨年度末に勤務している大手メーカーで定年退職を迎え、今は役員として再雇用されて働いています。契約は更新型で、うまくいけば70歳まで働ける見込み。妻(60歳)はホームヘルパーとしてパートで働いており、一人息子は私立高校の1年生です。

今年の5月、「4月に受け取ったばかりの退職金を、運用するなどして目標の貯金額まで増やせないか」というご相談で、夫婦で来店されました。

佐伯さんの退職金は2300万円でした。うち、車のローンや教育ローンの完済に550万円、リフォーム予算600万円、そのほか長男の国公立の大学費用に充てる予定の300万円を除いた残金が850万円。

この850万円が実質、現在の貯金額になるわけですが、「今後、最大10年間働くとして、この850万円を運用しながら収支の差額を積み立てることで、どうにか老後資金を2000万円まで増やせないか」とのこと。再雇用に伴い収入も手取り月50万円から45万円にダウンするため、家計の見直しを含めて来られたのです。

なお、佐伯さんはすでに2300万円の退職金から今後必要な支出を除いていますが、私はこれに加え、生活防衛費のために少なくとも今の生活の7.5カ月分の390万円程度もよけておいた方がいいと進言しました。すると、自由に使えるお金は350万円になります。佐伯さんの希望通り投資で増やしていくなら、元手資金は最大で460万円です。

「2300万円も退職金が出たのに、使えるお金はたった460万円か……。850万円をドーンと増やそうと思ったのに」

佐伯さんはもくろみが外れ、がっかりした様子。ですが、今後出ていく予定のお金や、生活防衛費などを除くと、意外と手元に残るお金はそう多くないのが現実です。ましてや佐伯さんの場合、ローンの残債が550万円もあるため、残るお金は少ない。さらにいえば、本連載で何度も述べてきたように、大金を元手に一気に増やすのは得策ではありません。投資はあくまでも、長期・積立・分散して行う方がリスクも低いというのがセオリーです。