儲けのために事故車を売る
――報道によると、今回のビッグモーターをめぐる問題では、事故車など問題のある車を販売していた疑いもあるようですが。
【磯﨑(拓)】当社は会長の時代から「事故車は売らない」という方針を掲げ、これを徹底してきました。中古車のオークションにはメジャーなところではJU(日本中古自動車販売協会連合会)、USSオートオークションなどがありますが、いずれも4点が平均値とされており、当社は4点以上の車のみ仕入れています。3点以下は当社では事故車すれすれという位置づけで、仕入れを見送ります。
しかし、仕入れの基準は販売店によってまちまちです。評価の低い車を「問題なし」と判断して仕入れ、販売している店もあります。
【磯﨑(孝)】私自身は板金塗装の経験があるので、オークションの点数に関わりなく車の外観を一通り見るだけで事故車かどうか判別できます。でも、一般のお客さまにはわかりにくい。お客さまを騙そうと思えば騙せるのです。ですから、儲けを出したいなら安く仕入れられる事故車を売ろう、という発想になるでしょうね。
私は若い頃、社業の傍らJUのオークション会場で手競りを行うコンダクターを務めていましたが、そこで事故車を専門に買っていく販売業者を多く目にしてきました。当時の中古車販売は、今以上にグレーでした。
無意味な営業ノルマ
【磯﨑(孝)】当社の場合、以前からあえて厳しい基準を設けて車を仕入れてきました。当然、利幅は薄くなります。それでも「いい車を売っていれば、お客さまはついてきてくれる」という判断でやってきたんです。現在のビッグモーターとはまさに真逆の経営方針といえると思います。
――営業社員には御社でもノルマを課しているのですか。
【磯﨑(拓)】営業所単位では目標数字がありますが、「今月は○台売らなければダメ」といった個人のノルマは当社にはありません。また、営業所の目標数字を達成すれば所員にはインセンティブがプラスされますが、未達なら個人の給与からマイナス分を差し引く、といったことはもちろんやっていません。
【磯﨑(孝)】当社でもかつては社員個人のノルマはありました。それが当たり前の時代だったので。
【磯﨑(拓)】時代が変わったということですね。ケーズホールディングスの加藤修一名誉会長が唱える「がんばらない経営」がこれからのスタンダードでしょう。無理な営業ノルマを課さない、長時間の残業をさせない。それでも成果を出すことはできるのですから。中古車販売業界でもこの方針は十分に通用するはずです。