中古車販売大手ビッグモーターの2022年度の売上高は推定5800億円で、国内中古車販売業界でトップだった。なぜそれほどの急成長が可能だったのか。『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)を出した磯﨑自動車工業(本社:茨城県ひたちなか市)の磯﨑孝会長と磯﨑拓紀社長に聞いた――。(第2回)
ビッグモーター社のロゴ
写真=Sipa USA/時事通信フォト
東京で見かけたビッグモーター社のロゴ。

ガリバーの急成長とはまったく違う

――帝国データバンクによると、ビッグモーターの2022年度の売上高は5800億円(2022年9月期推定)で、国内中古車販売業界でトップでした。なぜ短期間のうちに急成長を遂げられたのでしょうか。

【磯﨑孝会長[以下、磯﨑(孝)]】報道ではM&Aを重ねてきたことが急成長の理由とされていますが、それだけではないでしょう。例えば同社では新規に大型店舗を出店して、一気にその地域のトップに躍り出ることもある。これはどう考えても腑に落ちない。営業努力を重ねても、そう簡単にはいかないはずです。

――何かしらまっとうではないやり方をしていると?

磯﨑孝『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)
磯﨑孝『成長の原動力は会社を儲からないようにする』(プレジデント社)

【磯﨑(孝)】そう勘繰りたくもなります。健全に業績を伸ばしつづけている会社なら、その成長の理由は傍目にもおのずと見えてくるものです。

例えば、中古車販売・買取店ガリバーを全国展開するIDOM。当初は買取専業で業界首位を独走してきた同社が、そのノウハウをうまく生かす形で小売に進出し実績を上げる道筋をつけたことは、とても納得のできることでした。

もっと言えば、躍進を続けている会社であれば、それを支えている経営者の顔、人となりが具体的に見えてくるものですが、ビッグモーターにはそれが感じられないのです。

不正請求はやろうと思えばできる

――保険の不正請求は自動車販売店と保険会社の間で、構造的に起こりうるものなのでしょうか。

【磯﨑拓紀社長[以下、磯﨑(拓)]】そうですね。やりようによっては不正請求はいくらでもできてしまいますし、実のところ以前の方がもっとひどかったのではないかと感じています。かつては今ほど保険会社側のチェックも厳しくなく、アジャスター(保険鑑定人)がOKを出せば、すんなりと保険金が支払われていましたので。

要は、自動車販売店が損保会社をどのように位置づけるか、ということです。単なる下請けと捉えるのか、それともパートナーとしての関係を築くのか――。

当社もエンドユーザーから板金(修理)の仕事を請け負っていますが、そのうちの2割は損保会社からの紹介によるものです。ご紹介いただいたお客さまに理不尽な修理代金を要求したり、保険で違法な請求をしてそれが発覚したりすれば、損保会社側は大切なお客さまを紹介してくれなくなります。ですから当社としては損保会社をパートナーと見なして、いい関係を築くよう努めてきました。