監督に従うだけではクリエイティブな力は養われない

3年前の取材時に「慶應だからこそ、二刀流を求めないといけない」と森林は言った。今回、改めて聞いてみた。

「文武両道と言いますが、文武双全という言い方がしっくりくる。二つを全うするという意味。その二つはつながっている。グラウンドで頑張ることは頭を鍛えることにもなる。

福澤諭吉先生も学者として理屈だけではなくて実学も伴わないといけないと説いています。両方やっていくのは学校の使命かなと。

スポーツなので勝利は求めますが、勝ちさえすればいいではなくて、社会貢献をして世の中にインパクトを残す。社会的意義があるような取り組みをしていきたいと常に考えています」

グラウンド整備はみんなで。塾高グラウンドにて。
撮影=清水岳志
グラウンド整備はみんなで。塾高グラウンドにて。

侍ジャパンの活躍でWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は大盛況だった。しかし足元を見ると、国内では野球人口が減り続けていて、危機感を抱いている関係者は多い。

「野球界は旧態依然のことが多い。伝統だから続けていて、本当に必要なのか考えることを放棄している気がします。冷静に世間を見ている親世代は『野球は古い』と思っていて、野球に子供を預けない。野球というツールで人材を育てられるのか、かなり疑問符がついている。僕は相当な危機感を持っています。それを伝えていくことが慶應の使命。その自覚を勝手に持ってやっています。伝統校だから、新しいことにチャレンジシしなくちゃいけない」

そもそも高校野球の監督っていいことやっているのか。そんな原点を常に自ら問うているという。

「高校野球が生徒に何を与えられるのか。生徒は何を身に付けてくれているか。従来の体育会的な高校野球で監督の言うことに従って、横並びで悪目立ちしないことをよしとしたやり方で何か残ったのかなと。『甲子園に行きました』は素晴らしいことだけど、これからの人生、それだけでは食っていけない。身に付いたのは体力と礼儀だけではさびしい。野球を通じて、こういうことを学び、こういう人間になりました、と胸を張って言えるようになってほしい。

これからの日本を担うのは高校生を含む若い世代です。クリエイティブな力とか、失敗してもまた立ち上がる力とか、究極的には自分の幸せをとことん追求する力を付けてほしい。そのためには自分の頭で考えなきゃいけない。そう考えると、今の野球は逆行しているんじゃないかなって、不安です」

今春のセンバツに出場した全国36チーム中、丸刈りではなかったのは塾高を含む3チームだけ(香川県・英明、宮城県・東北)。

センバツの大舞台でルーツ校の思いは広がっていくだろうか。(文中敬称略)

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