夏の甲子園の予選で体調不良者が続出している。スポーツライターの広尾晃さんは「高野連は大会運営を優先し、選手の健康を軽視している。酷暑の中での試合強行はやめるべきだ」という――。
夏の甲子園出場を決め、喜ぶ慶応ナインら=2023年7月26日、横浜市
写真=時事通信フォト
神奈川県大会を制し夏の甲子園出場を決めた慶応ナインら=2023年7月26日、横浜市

今年の甲子園予選で起きている異常な状況

夏の甲子園の予選である都道府県選手権大会で、猛暑による健康被害の報告が相次いでいる。

7月15日の兵庫県大会、明石南ー滝川二の試合では、延長10回タイブレイクで明石南の選手6人が足をつり、うち4人が治療を受ける事態となった。試合は明石南が5ー9で敗れた。

7月26日に横浜スタジアムで行われた神奈川県大会の決勝では、球審の足がつって試合続行が難しくなり、試合が7分間中断。塁審の一人が球審になって試合が再開された。

各地の地方大会の関係者に話を聞くと

・晴天の開催日では、ほとんどの試合で足がつる選手が複数出ている
・一度水分補給や手当をしても、再度足がつる選手もいる
・審判にも体調不良を起こす人が出ている
・チアガールや応援団、一般観客なども倒れている
・投手など主力選手の足がつったことが原因で敗退するケースもある
・救急車のサイレン音が球場周囲でしょっちゅう聞こえる

という異常な状況になっている。

「今の選手はヤワ」はまったくの間違い

これまで「高校球児は暑さに耐える練習もしているから大丈夫だ」と言われてきた。年配の野球関係者の中には「いまどきの子は根性がないから、ちょっと暑くなると倒れてしまう」と言う人もいるが、その認識はおかしい。

1980(昭和55)年の東京の7月の日最高気温の平均は29.1度、8月は26.9度だったが、2022年は7月が31.4度、8月が31.0度になっている。速報値だが今年は7月で33.0度だ。

8月も最高気温は上昇しているが、7月は4度以上も気温が高くなっているのだ。もはや昭和と令和の高校球児では、野球をする環境が違う。

昔は、多くの高校で選手が十分な練習量を確保していた。だが今は、合同チームや通信制の高校など週1回程度しか練習しない学校も増えている。暑さへの対応が十分できないままに、試合に出場する学校も多いのだ。